本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

2022年を振り返って

 こんにちは。

 今年2月にブログを始めてから11か月、これまでたくさんの本を読んできました。年の終わりに振り返ってみたいと思います。

 

 

〇2月

 2月はまだ方向性が定まっておらず、手探りで書いていました。人の文章を読むのと、自分で書くのとでは、全く違っていました。

 

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〇3月

 3月は歴代ベストセラーを見ていく企画でした。

 時代を反映した本が人気だったり意外な本が売れていたりと発見が多かったです。ランクインしていた本はほとんど読めていないので、時間があるときに読み進めていきたいですね。

 個人的オススメは『風と共に去りぬ』です。

 

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〇4月

 ここからは、月ごとにテーマを決めて読んでいく形式を始めました。4月のテーマは、春を代表する花、『』でした。全12冊。

 日本人に最もなじみ深い桜は、小説の世界でも象徴的に扱われていました。桜はただ見て美しいだけでなく、得体の知れない不気味さを感じるもののようです。梶井基次郎の「桜に木の下には」が、後世の小説にも影響を与えているのが印象的でした。

 個人的オススメは『細雪』です。

 

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〇5月

 5月のテーマは、日本ダービーにちなんで『』でした。全13冊。

 人を乗せるためにあるような長い背中と強靭な脚を持ち、しかも大人しくて扱いやすい馬は、古くから人間と関わりの深い動物です。現代では主に競馬という形で活躍することが多いため、ミステリーとの相性が良いみたいです。

 個人的オススメは『優駿』です。

 

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〇6月

 6月のテーマは、6月2日に本能寺の変があった『織田信長』でした。全15冊。

 好きな歴史上の人物ランキングでは、常に1位に輝いている織田信長。その人気は小説においても絶大で、同じく上位常連の坂本龍馬や家康・秀吉よりも多くの小説に登場します。同じ人物を描いているはずなのに、ちょっとずつ見方が違うのが新鮮でした。出版年代順に読んでいったこともポイント。

 個人的オススメは『信長の原理』です。

 

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〇7月

 7月のテーマは、今年の『課題図書』でした。全18冊。

 夏休みに向けて、今年の課題図書に選ばれた本を読んでみました。絵本や児童文学は本当に久しぶりに読みました。改めて読んでみると、言葉は子供向けでもテーマは考えさせられるものが多かったです。

 個人的オススメは『海を見た日』です。

 

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〇8月

 8月のテーマは『数学』でした。全15冊。

 一般に文学とは対極にあると思われている数学ですが、数学小説では意外とも思える融合を見せていました。ちなみに、この月は課題図書のおかげでアクセス数が爆発的に伸びていました。みんな読書感想文に苦労していたみたいですね。

 個人的オススメは『博士の愛した数式』です。

 

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〇9月

 9月のテーマは、芸術の秋ということで『ピアノ』でした。全11冊+季節もの1冊。

 私のピアノやクラシック音楽に対する理解の浅さのせいで、うまく感想が書けなかったのは修行不足を痛感しました。読み手によって理解度が変わってしまうのも小説を読む難しさですね。

 個人的オススメは『さよならドビュッシー』です。

 

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〇10月

 10月のテーマは、スポーツの秋ということで『スポーツ』でした。全19冊+季節もの1冊。

 多くのスポーツ小説の中から、学生を主役とした青春小説を、各競技1冊ずつ読んでみました。どれを読もうか、選んでいて一番楽しかった月でした。青春小説の爽やかさが味わえるのはもちろん、知らない競技でも雰囲気や面白さが伝わってきて読んでいて楽しかったです。

 個人的オススメは『おとめの流儀。』です。

 

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〇11月

 11月のテーマは、読書の秋ということで『読書』でした。全14冊。

 読者を取り込んだようなメタ設定の本があったりと、やはり作家にとって本は特別なもののようでした。また、本をテーマにした本はたくさんあって、とにかく選ぶのが大変でした。

 個人的オススメは『はてしない物語』です。

 

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〇12月

 12月のテーマは、今年ももう終わりということで『世界の終わり』でした。全12冊+季節もの1冊。

 核兵器で、あるいは小惑星で、あるいは病原体で。もうすぐ世界が終わってしまう絶望感の中であっても、人々は意志を持って懸命に生きようとします。

 個人的オススメは『此の世の果ての殺人』です。

 

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〇今年を振り返って

 以上、今年は全142冊の本を紹介しました。最初の想定よりもたくさん読んでいて驚きました。月ごとにテーマを変えていったことで、その分野にそれなりに詳しくなりつつ、毎月新鮮な気持ちで読めた気がします。ただ、このままだとめぼしいテーマをやり尽くしてしまうのではないかと少し心配です。斬新な切り口のテーマを思いつけばいいのですが、未来に期待です。

 一方で、読みが浅い部分が多かったのが心残りでした。表面的にさらっと読んだだけになってしまった作品もあって、特に難解なものは最初から投げ出したような感想になってしまいがちでした。来年はできるだけ量と質のバランスを目指したいですね。

 目標といえば、来年は普段なかなか取り掛かれないような長編小説にも挑戦できればいいなと思っています。ギネスブックに載っている「世界一長い小説」とか、世界最古の長編小説とか、有名大作ファンタジーとか、何冊にも渡る大作に1か月かけて取り掛かるのはロマンがあります。現状でも月に10冊以上は読んでいるので、ペース的には不可能ではないはず。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

 よいお年を!

終末をめぐる冒険

 こんにちは。

 早いもので今年ももう12月。2022年もまもなく終わろうとしていますね。みなさんにとって、今年はどんな年でしたか。

 今月は、今年の本や漫画にまつわるニュースも一緒に振り返ってみました。読書離れや出版不況と言われて久しいですが、調べてみると毎月何かしらの出来事がありました。出版業界全体でどうにか盛り上げようとしているのがよく分かります。

 というわけで、今月は「世界の終わり」をテーマに本を読んでみました。

 

 

〇12の終わり方

エンド1.『終末のフール』紹介 - 本をめぐる冒険

 小惑星エンド。衝突まであと3年となり、パニックになっていた人々は再び平穏を取り戻し、自分の過去と向き合います。

 

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エンド2.『こんなにも優しい、世界の終わりかた』紹介 - 本をめぐる冒険

 青い光エンド。何もかもが動きを止めてしまう光が静かに世界を終わらせていく中、繊細で優しい人たちが愛する人たちのところへ向かおうとします。

 

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エンド3.『終わりの街の終わり』紹介 - 本をめぐる冒険

 伝染病エンド。南極に一人取り残された女性と、死んだ人が向かう街の話が並行して進んでいき、世界に何が起きているのかがだんだん分かってきます。

 

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エンド4.『ザ・ロード』紹介 - 本をめぐる冒険

 核戦争(?)エンド。崩壊してしまった世界で、親子がただひたすらに道を辿っていきます。

 

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エンド5.『地上最後の刑事』紹介 - 本をめぐる冒険

 小惑星エンド。世界の終わりが迫る中、念願の刑事になれた男が自殺としか思えない事件を追います。

 

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エンド6.『終末少女』紹介 - 本をめぐる冒険

 黒い沼エンド。恐ろしい口によって世界が食われていく中、孤島に流れ着いた7人の少女たちの戦いが始まります。一見ファンタジー、またはSF、と見せかけて本格ミステリーという異色作です。

 

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エンド7.『世界の終わりの天文台』紹介 - 本をめぐる冒険

 核戦争エンド。世界が終わってしまう様子は出てこず、かたや北極圏、かたや宇宙の彼方で生き残った人々の孤独と交流が描かれます。

 

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エンド8.『渚にて 人類最後の日』紹介 - 本をめぐる冒険

 核戦争エンド。北半球からの放射能が迫る中、潜水艦に乗り込んで謎の信号の元へ向かいます。

 

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エンド9.『復活の日』紹介 - 本をめぐる冒険

 病原体エンド。人類が「かぜ」により滅んでしまった流れと、そこからの巻き返しが描かれます。圧倒的な科学知識からのオチが印象深いです。

 

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エンド10.『アイ・アム・レジェンド』紹介 - 本をめぐる冒険

 吸血鬼エンド。自分以外の人類が皆吸血鬼になってしまった男が、生き延びるために戦います。古い作品ですが、映像として想像しやすくて読みやすいです。

 

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エンド11.『此の世の果ての殺人』紹介 - 本をめぐる冒険

 小惑星エンド。衝突まであと数か月となった中で自動車教習をする二人。思いがけず殺人犯を追うことに。

 

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エンド12.『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』紹介 - 本をめぐる冒険

 ジャンクションエンド?私が世界の終わりに巻き込まれていく物語と、世界の終わりという名前の幻想的な街の物語が交互に展開されます。

 

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〇おわりに

 世界の終わりを描いた小説は「終末系」とも呼ばれ、さらに原因別に見ると、核戦争系と小惑星系と疫病系の3種類に分類できそうです。別に狙ったわけではありませんが、今回読んだ12作は、それぞれのタイプが3つずつ、その他が3つと綺麗に分けられました。

 核戦争が起きた場合、南極か北極圏、少なくとも南半球へ行くことで、ほんの少しだけ長生きできるようです。北半球にいると、核戦争が起きた瞬間におしまいです。また、核戦争系は人類が自分たちの手で破滅に導いているところもポイントになりそうです。中でも『渚にて』では、核戦争による地球滅亡が本気で考えられていた当時の空気感も感じました。その頃に読んでいたら、今とは違った感想になるのかもしれませんね。

 それに対して小惑星が衝突する場合は、残念ながら地球のどこにいようが関係がないようです。このパターンでは、地球を一つの惑星として大きな枠で捉える傾向があるようです。また、誰も助からない代わりに終わりの日が明確に予測され、その日までは自然災害もパンデミックも起きないのが特徴です。小説的には、人々が残りの時間をどう過ごすのかがテーマになります。『此の世の果ての殺人』では、残された時間で殺人犯探しに取り組みます。「世界の終わり」設定もストーリーに絡んでくる、新人作家と思えないくらい完成度の高い作品でした。

 最後の疫病パターンは、新型コロナを経験した我々からすると、今のところ一番親しみやすいかもしれません。ご存知の通り、感染症を食い止めるのは非常に難しいことです。核戦争や小惑星はこれまでの人類の歴史上経験したことがありませんが、黒死病スペイン風邪といったパンデミックは、これまでに実際に何度も起きています。にもかかわらず、医療が発達した現在においても、世界中があんなにもパニックになってしまうもののようです。人類を滅ぼす可能性が一番高いのは巨大な隕石ではなく、ひょっとして目に見えない小さなウイルスなのかもしれませんね。『復活の日』では、「かぜ」により人類が滅亡します。科学の功罪というテーマも一貫していて、滅亡からの展開も二転三転あってとても面白かったです。

 どの作品においても、残された人々は最後まで生きようとしていたのが印象的でした。もうすぐ全てが終わってしまうという極限状態だからこそ、生きることの意味がクローズアップされるというのが、逆説的で面白いですね。ただ絶望的な雰囲気なだけでなく、最後まで人としての意志や希望を感じられました。

 ここまで読んでくだってありがとうございました。

 終わり。

『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』紹介

 こんにちは。

 早いもので今年ももう12月。2022年もまもなく終わろうとしていますね。みなさんにとって、今年はどんな年でしたか。

 12月には、日販による今年のベストセラーが発表されました。

順位 書名 著者 出版社
1 80歳の壁 和田秀樹 幻冬舎
2 人は話し方が9割 永松茂久 すばる舎 
3 ジェイソン流お金の増やし方 厚切りジェイソン ぴあ
4 20代で得た知見 F KADOKAWA
5 同志少女よ、敵を撃て 逢坂冬馬 早川書房 
6 メシアの法 大川隆法 幸福の科学出版
7 898ぴきせいぞろい!ポケモン大図鑑(上・下)           小学館
8 70歳が老化の分かれ道 和田秀樹 詩想社
9 本当の自由を手に入れる お金の大学 両@リベ大学長 朝日新聞出版
10 私が見た未来 完全版 たつき 飛鳥新社

 2022年に一番売れたのは、和田秀樹さんの『80歳の壁』でした。他にもお金や生き方に関するものが多く、将来に向けての不安を和らげてくれるような本が売れているみたいです。小説からは、本屋大賞を受賞した『同志少女よ、敵を撃て』や、17位に東野圭吾さんの『マスカレード・ゲーム』がランクインしていました。

 今年も色々ありましたが、なるべくやり残したことのないように年の終わりを迎えたいですね。

 というわけで、今月は「世界の終わり」をテーマに本を読んでいきたいと思います。

 さて、今回は村上春樹さんの『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を紹介します。

 

 

〇あらすじ

 計算士の私は、老研究者の依頼を受けて、禁止されていたシャフリングを行った。それを機に巨大な組織同士の争い、そして世界の終わりに巻き込まれることになる。

 街に入るときに影と切り離された僕は、図書館で古い夢を読む仕事を与えられる。その一方で街の地図を作りながら、影と共に脱出のチャンスを伺っていた。

 

 どうやら私の眠りはひどく安い値段で競売にかけられているようだった。みんなが中古タイヤの具合をためすみたいに私の眠りを蹴飛ばしていくのだ。

 

〇感想

 本作では、ジャンクションが切り替わったことにより世界が終わります。(私の力不足により説明が難しいので、ぜひ読んでみてください。)本作は2つの物語が交互に進んでいく形で進行します。一つは中年の男が抗争や陰謀に巻き込まれるSFチックな「ハードボイルド・ワンダーランド」、もう一つは閉じられた街を舞台とした幻想的な「世界の終わり」です。2つの物語が交互に語られる構成は、村上春樹さんの他の長編作品にも使われています。

 一見対照的で関係なさそうなストーリーですが、注意深く読むとペーパークリップや一角獣などの共通点が見えてきます。さらに読み進めていくうちにだんだんと話が繋がってくるのが不思議で面白いです。その「なんとなく見えてくる」感覚が楽しくて、本作は何回も読み返すくらいに好きな作品です。読みやすいのに内容を理解するのは難しく、もしかしたら分からないからこそまた読みたくなるのかもしれません。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『クリスマス・カロル』紹介

 メリークリスマス!

 今日12月25日はクリスマスです。12月に入ったとたんに日本中がクリスマスのBGMばかりになるので、個人的には「ようやく25日になったのか」とも思ってしまいますが。

 さて、今回はディケンズさんの『クリスマス・カロル』を紹介します。

 

 

〇あらすじ

 クリスマスイブの日、けちで冷たい、がりがり爺のスクルージの前に、仕事仲間だったマーレイの幽霊が現れる。彼は生前の行いから、死後7年間もさまよっていると言う。さらに、これから3日間、深夜になるとスクルージのところへ3人の幽霊が順番にやって来ると予告する。

 

 打てよ、死よ、打てよ!そしてその傷口から彼の良い行動が噴き出し、不滅の生命を世界に植えつけるを見るがよい!

 

〇感想

 最初はスクルージのあまりの冷酷さに憎たらしさを感じてしまいます。「がりがり爺」という言葉は懐かしささえ覚えました。ですが、彼も幽霊が現れてからはただひたすらに怯えることになります。3人の幽霊は過去、現在、未来を象徴した幽霊で、辛い子供時代や温かなクリスマスを過ごす他の家庭の様子、惨めな末路を見せてきます。個人的には、悲惨な未来を見せられるのが一番応えそうだと思いました。周囲の人間に冷たくするあまり、独り寂しく孤独死を迎え、死後は同じことをやり返されてしまいます。因果応報と言えばそれまでなのですが、将来のことは先が見えないだけになおさら不安になりそうです。未来の幽霊だけ全く言葉を発しないのも不気味でした。

 物語のラスト、これまでの孤独な生き方を後悔したスクルージは、まるっきり別人のように変わります。クリスマスを誰よりも楽しげに祝い、甥や書記にも優しく接します。これでスクルージを許してあげるあたり、2人とも人間ができているなとも思いますが、クリスマスとは誰にでも優しくなれる特別な日なのかもしれません。日本では恋人同士で過ごすクリスマスイブの方に注目が集まりますが、欧米ではクリスマスは家族で過ごすものと考えられているというのは有名な話です。身近な人と楽しいひと時をおくるのが、本来のクリスマスの過ごし方なのでしょう。誰かに優しくすれば、自分にも優しさが返ってきます。これもある意味では因果応報です。

 それでは、よいクリスマスを。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『此の世の果ての殺人』紹介

 こんにちは。

 早いもので今年ももう12月。2022年もまもなく終わろうとしていますね。みなさんにとって、今年はどんな年でしたか。

 10月には、今年のノーベル文学賞が発表され、フランスのアニー・エルノーさんが受賞しました。自身の経験を赤裸々に綴った私小説寄りの作品が多いようで、いつか挑戦してみたいですね。

 今年も色々ありましたが、なるべくやり残したことのないように年の終わりを迎えたいですね。

 というわけで、今月は「世界の終わり」をテーマに本を読んでいきたいと思います。

 さて、今回は荒木あかねさんの『此の世の果ての殺人』を紹介します。第55回江戸川乱歩賞を受賞した作品で、私にしては珍しく今年発売された新作です。もちろん、ネタバレに注意して書いていきたいと思います。

 

 

〇あらすじ

 小惑星の落下によりまもなく世界が終ろうとしている中、小春は自動車学校でイサガワ先生から教習を受けていた。高速教習を始めようとした矢先、教習車のトランクから女性の死体を発見する。驚く小春をよそに、イサガワ先生は冷静に死体を観察し、殺人事件だから捜査しようと言い出した。

 

星の観察を邪魔する夜の明かりを光害と呼ぶ。不幸な水曜日以降街から人が消え、電気が止まって、初めて夜空は光害から完全に解放された。

 

〇感想

 本作では、小惑星により世界が終わります。小惑星「テロス」の衝突、しかも落下地点は熊本県阿蘇郡。絶望した人々は自殺に走るか、あるいは国外脱出を図ろうとします。まさに「この世の果て」のような混乱の中で、わざわざ自動車学校に通い出す小春も、淡々と殺人事件の捜査を始めるイサガワも、かなりの変人と言えます。まあミステリーで変人探偵と言えば、シャーロック・ホームズの頃からのお約束なのですが。それでいていい意味でミステリーらしからぬ展開も待ち受けているので、読み物としても意外性があって引き込まれました。小春が自動車教習を受け始めた理由も伏線になっており、「世界の終わり」という設定がきちんとストーリーに生かされているのがすごく良かったです。

 個人的には、世界の終わりとミステリーの相性が良かった点が意外でした。現代でミステリーと言えば、「警察が介入しないのか?」や「携帯やネットを使わないのか?」が疑問になることが多いです。そのため、外界から遮断された孤島や雪山が舞台とされることが多く、それらはクローズドサークルものと呼ばれます。ところが、本作では「世界の終わり」という設定そのものが、自然な形で(?)その問題をクリアしてしまっています。警察もネットも機能していない状況では、必然的に素人探偵の出番となります。奇抜な設定なのに、いつのまにか名探偵が必要とされる条件が整っているのが面白いですね。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『アイ・アム・レジェンド』紹介

 こんにちは。

 早いもので今年ももう12月。2022年もまもなく終わろうとしていますね。みなさんにとって、今年はどんな年でしたか。

 11月には、『すずめの戸締まり』『母性』『ある男』といった映画の原作小説の売れ行きが好調でした。映画館の大きなスクリーンで見るのももちろんいいですが、文字から自分であれこれ想像するのも、小説ならではの楽しみ方ですね。

 今年も色々ありましたが、なるべくやり残したことのないように年の終わりを迎えたいですね。

 というわけで、今月は「世界の終わり」をテーマに本を読んでいきたいと思います。

 さて、今回はリチャード・マシスンさんの『アイ・アム・レジェンド』を紹介します。

 

 

〇あらすじ

 ロバート・ネヴィルは自宅に立てこもっていた。にんにくを取り換え、杭を作り、「奴ら」の襲撃に備える。1976年、彼は地球で最後の人間だった。

 

この小説は迷信や陳腐なソープ・オペラの寄せ集めだが、この台詞は真実を突いていた。吸血鬼を信じる者が誰もいないのに、それを相手にどう戦えばいいのだろう?

 

〇感想

 本作では、ある病原体により世界が終わります。それに感染した者は、他の人間に襲いかかり、血を吸うようになってしまいます。「奴ら」に対処するには、にんにく、十字架、鏡、日光などで弱らせて、胸に杭を打ち込む必要があります。みなさんお察しの通り、世界中の人間が吸血鬼になってしまったのでした。こうして挙げていくと、吸血鬼の弱点は多いですね。主人公のロバート・ネヴィルはたった一人生き残った「人間」として、この地獄のような世界で生き残ろうとします。実は本作は1954年に刊行された古いもので、現代作品に吸血鬼を取り込んだ最初の作品なのだそうです。

 本作を読んで感じたのは、すごく映画っぽいなということでした。映像化を意識して書かれているのか、動く絵として見たら映えるようなシーンが多かった気がします。俳優やカメラワークを想像しながら読むとより面白そうです。これが1954年に書かれたとはちょっと驚きですね。著者のマシスンさんは脚本家でもあったそうで、本作も実際に何度も映画化されています。その度に原作小説も再翻訳され、タイトルも『吸血鬼』『地球最後の男』『アイ・アム・レジェンド』と変わっています。私が読んだのは尾之上浩司さん訳の2007年版でしたが、古さを感じさせない現代的な表現で一気に読んでしまいました。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『復活の日』紹介

 こんにちは。

 早いもので今年ももう12月。2022年もまもなく終わろうとしていますね。みなさんにとって、今年はどんな年でしたか。

 9月には、東野圭吾さんの小説を原作とした映画『沈黙のパレード』が公開され話題となりました。ガリレオシリーズは小説としてももちろん人気があり、このブログでも『容疑者ⅹの献身』を紹介したことがありましたね。

 今年も色々ありましたが、なるべくやり残したことのないように年の終わりを迎えたいですね。

 というわけで、今月は「世界の終わり」をテーマに本を読んでいきたいと思います。

 さて、今回は小松左京さんの『復活の日』を紹介します。

 

 

〇あらすじ

 吉住は原子力潜水艦ネーレイド号の中から、気球を通して変わり果てた東京の様子を見た。未知の病原菌は、瞬く間に世界を終わらせてしまっていた。

 

 そうだ、人間は、めいめいが思っているより、はるかにはなればなれにくらしている。

 

〇感想

 本作では、インフルエンザウイルスにより世界が終わります。時代は1960年代。本作は2部構成になっており、第1部では細菌兵器が事故で流出したことにより、世界中で当時35億人の人類や動物たちが次々と死んでいく様子が描かれます。本作に登場するMMウイルスは宇宙から採取されたというSF設定ですが、新型コロナウイルスを経験した身としては、瞬く間に世界中に広がっていく感染力はかなりリアルだった感じました。また、細菌学についての説明に相当な分量が割かれており、知識量に圧倒されてしまいます。科学は繁栄に役立つこともあれば戦争に使われることもあるというテーマも一貫して描かれていました。それらの問題は、60年経った現在でもウイルスが防げないのと同様に、今でもあまり変わっていない気もします。

 そして第2部では、人類最後の生存圏となった南極で、世界の終わりの後も生き延びようとする人々の姿が描かれます。分量的には第1部の半分くらいしかありませんが、ここからの展開は前半を上回るほど面白く、さらなる波乱が彼らを襲うことになります。膨大な科学描写も伏線の一つになっており、最後のオチも皮肉が効いていて印象深かったです。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。