スポーツの試合後のような読後感 『ダービーパラドックス』紹介
こんにちは。
今年5月29日には日本競馬界でも最も特別なレース・日本ダービーが開催されます。今月はそれにちなみ、『馬』まつわる本を読んでいきたいと思います。
2005年、第72回日本ダービーで勝利したのはご存知ディープインパクトでした。「走る」ではなく「跳ぶ」と形容される強力な差し脚で圧勝を重ね、シンボリルドルフ以来の無敗での三冠を達成、競馬ファンの枠を超えて社会的な人気になりました。種牡馬としても同じく無敗三冠馬を達成するコントレイルや牝馬三冠のジェンティルドンナといった優秀な産駒を多数輩出する大活躍を見せています。
さて、今回紹介するのは、島田明宏さんの『ダービーパラドックス』です。タイトル通り、日本ダービーをめぐるミステリーとなります。実在の日本馬をモデルにしていると思われる部分も多く、競馬ファンはニヤリとしてしまうかも?
ミステリー作品なのでネタバレには注意して書いていきます。
〇あらすじ
IT実業家の堂林の所有する馬はなぜか故障を繰り返していた。記者の小林は堂林を探るが、逆に監視されているような気配さえ感じる。そんな中、堂林所有のジェメロという馬に惹きつけられる。新馬戦での惨敗の後、ジェメロは圧倒的な連勝を続け、日本ダービーへと向かう。
〇この馬がすごい!
本作の主役は人間たちというよりも馬のジェメロです。気性はかなり荒く、新馬戦ではレースに集中できずに惨敗します。しかし見る人を惹きつける魅力を秘めた馬で、小林は堂林の所有馬であるだけでなく、ジェメロという馬そのものに魅せられます。母の父が実在の競走馬であるメジロマックイーンであるという細かな設定があるのですが、モデルとなる馬がいるのでしょうか。
本作のラストは日本ダービー本番でのレースで終わるのですが、まるで素晴らしいスポーツの試合を見終わったかのような爽やかな読後感となりました。ミステリーとしては正直なところやや物足りなさが残りました(ネタバレになるので伏せますが、メイントリックはミステリーのお約束的には疑問が残りました)が、最後の疾走感のある描写はそれを補うくらい良かったと思います。
競馬はギャンブルであると同時にスポーツでもあるのだなと改めて思いました。
ここまで読んでくださってありがとうございました。