本をめぐる冒険

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『悪魔が来りて笛を吹く』紹介

 こんにちは。

 唐突ですが、私はこれまで金田一耕助シリーズを読んだことがありませんでした。金田一と言えば、人が何人も死んだり、猟奇的な殺人事件があったりと、ホラー的な要素もあることで有名ですね。最近暑くなってきたこともあり、ふと読みたくなりました。

 さて、今回は横溝正史さんの『悪魔が来りて笛を吹く』を紹介します。

 

 

〇あらすじ

 巧みな手口により13人に青酸カリを飲ませた、恐るべき天銀堂事件。その容疑者とされた元子爵の椿英輔氏が失踪を遂げた。しかし死体となって発見されたはずの彼は、実は生きているかもしれないという。彼の娘の美禰子から相談を受けた金田一耕助は、調査に乗り出す。異様な雰囲気の占い会の翌日、玉虫元伯爵が密室の中で殺害されているのが発見される。

 

〇登場人物

・椿英輔  ・・・元子爵。「悪魔が来りて笛を吹く」作曲。失踪。

・秌子   ・・・英輔の妻。

・美禰子  ・・・英輔の娘。

・新宮利彦 ・・・秌子の兄。

・華子   ・・・敏彦の妻。

・一彦   ・・・敏彦の息子。英輔のフルートの弟子。

・玉虫公丸 ・・・秌子の叔父。元伯爵。

・三島東太郎・・・英輔の友人の遺児。

・信乃   ・・・ばあや。

・種    ・・・女中。

・菊江   ・・・玉虫の小間使い。

・目賀重亮 ・・・秌子の主治医。

 

 

〇感想

 本作では本編が始まる前に「これと似た事件があっても関りがない」という旨が、作者によってわざわざ宣言されています。ですが作中で語られる「天銀堂事件」は、ほぼ間違いなく昭和23年に実際に発生した帝銀事件という未解決事件を元ネタにしていると思われます。言葉巧みに青酸カリを飲ませる手口や10人以上が亡くなった点、容疑者とされた人物が無実を主張し続けたまま死亡した点など、事実そのままと言っていいくらい多くの共通点があります。作り話のような実際の事件から着想を得て、壮大な物語を膨らませていったと考えると、作家としての想像力や構成力が見えてきて面白いですね。

 他にも、「悪魔が来りて笛を吹く」と名付けられた曲や落ちぶれた華族の裏事情といった要素が、なんともいえない不気味な雰囲気を作り上げています。実はそこにも隠された秘密があり、終盤で伏線が回収されるのが見事でした。特に最後に待っているオチはこれ以上ないくらいに絶妙でした。オカルト的な要素やありえないような事件を、人間の執念が感じられる結末に着地させていて面白かったです。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。