『東京バンドワゴン』紹介
こんにちは。
「秋と言えば」シリーズ、最後はもちろん読書の秋。10月27日~11月9日は「読書週間」でもあります。本を読むのにぴったりの秋の夜長には、せっかくなら「本についての本」を読むのはいかがでしょうか。
というわけで、11月のテーマは『読書』です。
心にとっての読書は、身体にとっての運動と同じである。
リチャード・スティール(アイルランドの作家/1672-1729)
さて、今回は小路幸也さんの『東京バンドワゴン』を紹介します。
〇あらすじ
語り手である幽霊・堀田サチが見守る中、サチの亭主で頑固親父の勘一、二人の息子で伝説のロッカー・我南人、さらにその子供である藍子・紺・青、紺の嫁の亜美、藍子の娘である花陽、紺と亜美の息子である研人の8人家族は、東京の下町で「東京バンドワゴン」という古本屋兼カフェを営んでいた。
今日も朝から騒がしい堀田家。そんな東京バンドワゴンの本棚に、見たことのない百科事典が現れたり無くなったりする。(『百科事典はなぜ消える』)
もともとぼーっとしている藍子だったが、最近なぜか元気がない。さらに堀田家には、青の恋人だというみすずが押しかけてくる。(『お嫁さんはなぜ泣くの』)
勘一たちが老人ホームに貸本を届けた翌日、入居者の一人が行方不明になったという。また、紺が古書の買い取りに向かったが、朝目覚めると依頼人も本も消えていたという。(『犬とネズミとブローチと』)
青の結婚式が迫る中、夏目漱石『それから』の初版本が発見される。そこには、先代が書き残したと思われる「冬に結婚すべからず」という家訓が記されていた。(『愛こそすべて』)
「お祖父ちゃん!たまごかけご飯に醤油かけすぎです!死んじゃいますよ!」
〇感想
8人の大家族が毎日ワイワイガヤガヤ大騒ぎ。もちろんご近所さんとも顔なじみ。毎度毎度事件やトラブルが発生するが、なんやかんや最後は笑ってハッピーエンド。本作では、ひと昔のホームドラマのような、どこか楽天的で懐かしい世界観が繰り広げられています。実はよく見ると曾祖母や祖母がすでに亡くなっており、青が愛人の子だったり、藍子がシングルマザーだったりと、なかなか重い設定のてんこもりなのですが、終始楽しんで読めるのもこの雰囲気のおかげですね。個人的には、各話の最初に挟まれるみんな揃っての朝食シーンが好きです。それぞれが好き勝手に話をしながらも、会話が混線しないのは大家族ならではです。
また、推理要素も入れつつ短いお話の中で起承転結がしっかりと組み立てられており、本当にドラマを1話見たような気分でサクサク読めます。大家族の雰囲気に日常ミステリーの手軽さがぴったり合います。本作が発売されたのが2006年で、その後シリーズ化。2022年現在17巻が刊行されています。基本一話完結型なので、最初から読んでも、好きな所から読んでも良さそうです。私自身はいわゆる下町のようなところで暮らした経験はありませんが、それでも懐かしさを感じるのは不思議です。人間関係が希薄になった現代だからこそ、昔ながらの下町の人情味に憧れるのかもしれませんね。
ここまで読んでくださってありがとうございました。