本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

京都の風景と優しい雰囲気が魅力の『二十年目の桜疎水』紹介

 こんにちは。

 4月のテーマは『』です。3月27日は日本さくら協会が制定した「さくらの日」です。七十二候の「桜始開」であることと、咲く(3×9)のごろ合わせから27日になったのだそうです。ちなみに、ウェザーマップによると今年の東京の満開日はちょうど3月27日でした。古くから日本人を魅了してきた桜は、数多くの小説にも登場してきました。

 今回紹介する本は、大石直紀さんの『二十年目の桜疎水』です。

 ミステリーなのでネタバレに注意しながら書きたいと思います。

 

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〇どんな本?

 推理作家の大石直紀さんの短編ミステリーで、京都の名所を舞台にした本作で第8回みんなで選ぶ京都本大賞を受賞されています。

〇あらすじ

 賀茂大橋で寸借詐欺を行うおばあちゃん。警察がやってきて捕まってしまう。私ならもっとうまくやれる。そう思った私は詐欺師になった。(『おばあちゃんといっしょ』)

 久々に京都に戻ってきたさやかはランニング中にお地蔵様に手を合わせた。そして真如堂の境内で泰宏の母親の変わり果てた姿を見てしまう。(『お地蔵様に見られてる』)

 母の危篤の知らせを受け、20年ぶりに私はスウェーデンから帰国する。いまわの際に母が残した謝罪の言葉を聞き、かつての恋人の雅子に会いに行くことを決心する。(『二十年目の桜疎水』)

 信吾は詐欺グループの兄貴分である上宮の命令で一人暮らしの老人について探っていた。数日後、悪人のくせになぜか信心深い上宮は、曼殊院のおみくじで運勢を占ってから詐欺を実行する。(『おみくじ占いにはご用心』)

 ギャンブル依存症により仏所を破門された正隆は贋作を売りさばく光文堂という店で雇われることになる。ある日、正隆の前に円空仏が持ち込まれて・・・。(『仏像は二度笑う』)

 昔離婚した祖父が今になって祖母と年賀状のやり取りをしているという。ミステリーと料理が好きな私は、祖父がキッシュを売っているという上賀茂神社の手作り市に出かける。(『おじいちゃんを探せ』)

〇この『桜』がすごい!

 各話にきちんと意外な結末が用意されたライトミステリー的な短編でした。

 表題作「二十年目の桜疎水」では桜自体が話のメインになるわけではないのですが、美しい風景にマッチしたさわやかな読後感がとても好印象でした。冬の長いスウェーデンからやや重たい雰囲気で始まり、京都一と呼ばれる桜疎水の美しい景色で終わるのも対照的で面白いです。

 他にも京都の名所がたくさん出てくるところも本作の見どころの一つです。

  • 賀茂大橋・・・鴨川が賀茂川と高野川に分かれるデルタ地帯に架かる橋
  • 真如堂・・・正式には真正極楽寺といい、本尊の阿弥陀如来像は女人を救う仏とされる
  • 疎水の道・・・琵琶湖からの水を引いている用水路で、桜の名所
  • 曼殊院・・・比叡山から移された際に数寄屋造りに改装され、「小さな桂離宮」と呼ばれる
  • 寺町通・・・京都御所の東側を南北に延びる通りで、歴史のあるお店が多く並んでいる
  • 上賀茂神社・・・京都で最も古い神社とされ、毎月第4日曜日に手作り市が開催されている

 すべて実在する場所で、京都の風情のある情景を想像するといっそう楽しめます。

 また、お地蔵様や円空仏といった仏教的なものがメインに絡んできたり、最後には救いがあったり、結局悪人にはなりきれなかったりと全体的に優しい雰囲気がありました。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。