本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『幻想即興曲』紹介

 こんにちは。

 みなさんは、秋と言えば何を思い浮かべますか?読書の秋ももちろんいいですが、秋と言えば芸術の秋ですね。たまには優雅なピアノの演奏に耳を傾けたくなります。

 というわけで、9月のテーマは『ピアノ』になります。

 1882年、ハンガリーパウル・フォン・ヤンコが「ヤンコ盤」を発明しました。それは44個の鍵盤が6列、全264個もの鍵盤が並ぶというものでした。2本の手だけで弾くのはすごく大変そうですね。

 さて今回は、西澤保彦さんの『幻想即興曲』を紹介します。ミステリー作品なのでネタバレに注意して書いていきます。

 

f:id:itsutsuba968:20220409214319j:plain

 

♪ あらすじ

 智香子は、ある手書き原稿の件について妹の永依子に相談していた。ショパンの有名な曲と同名の『幻想即興曲』という題の原稿は、彼の遺言と同じく「燃やしてくれ」と言われて古結麻里から預かったものだった。しかもその原稿は実際の事件を扱った内容で、真犯人を示すものだった。

 

♪ 本の間奏

 ショパンの「幻想即興曲」は、クラシックに詳しくない人でも一度は聞いたことがあるくらい有名な曲です。ですが、この曲にはショパンが友人のフォンタナに託した際に、「処分してくれ」と遺言を残したという逸話が残されています。しかしショパンの死から6年後、フォンタナは「幻想即興曲」として出版しました。それはショパンの遺志には反することですが、もし遺言通りに処分していたら我々がこの曲を聴くこともなかったと考えると、不思議な運命を感じますね。

 本作はそうしたエピソードをモチーフとしたミステリーとなっています。「幻想即興曲」という小説が作中作という形で登場する二重構造となっており、それが真相にもうまく反映されていました。小説「幻想即興曲」は、著者である麻里が目撃した1972年の殺人事件を小説に起こしたものという設定です。貸本業を営む佐藤善治郎の家で、医師の野田が包丁で刺されて死亡する事件が発生。野田の妻である美奈子が罪を認めて事件は解決したと考えられましたが、当時子供だった麻里は犯行時刻に美奈子がショパンの名曲・幻想即興曲を弾く姿を目撃していました。その姿が深く心に焼き付いた麻里は、小説として書き残すことになり、数奇な運命を辿ることになります。

 作中作では、キネマ座や日本専売公社といった名称や昔らしい言葉遣いが用いられ、昭和レトロ的なノスタルジックな雰囲気を感じました。幻想即興曲の持つ美しく怪しげな雰囲気とは真逆で、だからこそ美奈子という存在が周りから浮いているように感じました。たぶんそれは作者の狙った効果なのだろうと思います。探偵役の永依子もヨーロッパで演奏活動をしている音楽家という設定なのですが、彼女がピアノを弾くシーンがないのが少し残念でした。ショパン篇となっているので続編はあるのでしょうか。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。