『サクラオト』紹介
こんにちは。
4月のテーマは『桜』です。さくらと名前のつく歌がリリースされています。歌詞ネットというサービスで「さくら」と検索すると1000件以上ヒットしました。森山直太朗、ケツメイシ、コブクロ、福山雅治など有名な曲が多かったのですが、面白いことに歌詞を見るとほとんどが「かつて別れた恋(友)人を回想する」といった内容でした。桜の別れのイメージは日本人ならではのものなのでしょうか。古くから日本人を魅了してきた桜は、数多くの小説にも登場してきました。
今回紹介する本は、彩坂美月さんの『サクラオト』です。最近昔の本ばかりだったので、比較的新しい本を選んでみました。
ミステリー作品なので特にネタバレに注意しながら書いていきます。
〇どんな本?
5話+エクストラステージの6つのミステリーが載っている短編集です。
季節が春、夏、秋、冬と来てまた春に戻るなど、手の込んだギミックが仕込まれており、短編ですが一気に読んでほしいと思います。
〇あらすじ
まもなく卒業を迎える朝人は、大学で仲の良かった詩織を廃校になった女子高に連れ出して謎解きを仕掛ける。その桜の下では何人もの人が死んでいた。かつて仲の良かったクラスメイトを毒殺し、自分は屋上から飛び降りた少女は「桜の音が聞こえる」と言い残していた。(『サクラオト』)
死んだ母の代わりにと張り切る夏帆だが、思春期を迎えた弟の晴希の反応は冷たかった。弟が小さな女の子を連れている姿や女子トイレに入っていく姿を目撃する。ある日、慌てて帰宅した弟の服には血が付いていて・・・。(『その日の赤』)
夫から健康診断に引っかかったことを告げられた夜、かつて憧れの先輩だった綾子から同窓会の誘いを受ける。懐かしい園芸部の面々と再会し、会は順調に終わったかに見えたが、3日後に綾子が死体で発見される。(『Under the rose』)
大学生の紘一はクリスマスケーキが苦手であることが原因で彼女にフラれてしまったと空知に愚痴をこぼす。幼いころクリスマスに失踪したという伯母にトラウマがあるかもしれないと考えた空知はそのときの状況を再現することを提案する。(『悪いケーキ』)
人見知りの風花は両親により参加させられたバスツアーで転落事故に遭う。同じく事故に遭った楓太という少年に手を引かれ、二人は奇跡的に無事救出された。誰から見てもお似合いの二人も大学生になっていた。(『春を掴む』)
(『第六感』についてはあえて伏せます)
〇この『桜』がすごい!
それぞれの話に毎回意外性のある解答が用意されており、ミステリーとして想像以上に面白かったです!
個人的に好きなのは表題作である『サクラオト』です。
「桜の音が聞こえる人は、魔に魅入られた人なんだって」
と始まる冒頭部分は、やはり梶井基次郎の『桜の木の下には』を連想させます。本作の「桜の箱」に閉じ込められたようという表現も詩的で妖しげな雰囲気を感じました。
そして何よりも、手の込んだ仕掛けがたくさん用意されているのが面白かったです。何気ない描写にも伏線が隠されており、最後にすべてがキレイにつながります。季節がバラバラであること以外にも仕掛けがありますが、注意深い人なら各話のタイトルと上のあらすじを読んだだけで気が付くかもしれませんね。
連作短編ならではの面白さが味わえました。
ここまで読んでくださってありがとうございました。