本をめぐる冒険

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『博士の愛した数式』紹介

 こんにちは。

 皆さんは「数学」と聞くと、何を思い浮かべますか?多くの人が抽象的で難しいと考える一方、他にはない論理的な純粋さや美しさを感じる人もいたりと、結構好き嫌いが分かれる分野です。また、一般的には小説のような文学とは対極にあるイメージだと思います。ですが、数学を題材とした本というのも実は数多く書かれています。

 というわけで、8月のテーマは『数学』です。

 さて今回は、小川洋子さんの『博士の愛した数式』を紹介します。第1回目の本屋大賞受賞作で、映画もヒットした有名作ですね。逆に解説が難しい・・・。

 

 

〇あらすじ

 家政婦の私は、80分しか記憶が持たない博士の世話をすることに。博士にとって数学はコミュニケーションの手段でもあった。私の誕生日と博士の腕時計の番号に友愛数を見出し、私の息子を彼の頭の形からすべてを受け入れる記号「ルート」と呼ぶ。私と息子と博士の間には次第に友情が芽生えていく。

 

〇数学と物語と

 本作の最大の魅力は、数学的な内容と3人によるストーリーの内容とが違和感なく結びついているところだと思います。「私」が博士の家政婦として派遣されたところから話が始まります。博士にはいくつか特殊な事情があり、一つは優秀な数学者であることでした。ところが、事故により記憶が80分しかもたないようになってしまい、今では義理の姉の元に身を寄せ、たまに数学の懸賞を送ったりして日々を送っていました。博士にとって「私」は毎日「初めて会う家政婦」でした。そんな博士にとって、数学は誰かと交流するための手段でもありました。

 本作には、友愛数完全数、双子素数といった様々な数字が登場します。博士の専門は数学の女王と呼ばれる整数論で、素数についての話が多かったです。博士は数学を知らない「私」や小学生のルートにも(そして読者にも)分かりやすく説明してくれます堅苦しい証明や複雑な定理といったイメージが多い数学ですが、素数のシンプルさや美しさには興味をそそられます。一見なんでもないような数字でも、何か意味を見出すことで特別な数字に見えてきますね。それが博士との友情に繋がっていき、読者としても共感しやすくなっています。

 本作の中でも重要な意味を持ち、博士が愛した数式でもあるのが、オイラーの公式と呼ばれるものです。

 e^{{i\pi }}+1=0

 iは2乗すると-1になる虚数、πは3.1415・・・と続く円周率、eは複利計算を無限に続けると行き着く数でネイピア数と呼ばれ、数学や物理の世界では重要とされる数です。詳しい説明は専門家の方に任せますが、いかにもよく分からない文字が3つまとまったものに1を加えると0になるというのが不思議で、どこか美しさを感じます。複雑に見えるものが調和されてシンプルな等式に落ち着くところはまさに数学の神秘とも言えそうです。ちなみにこの等式を発見したオイラーは数学に熱中するあまり失明してしまったそうで、両目を失明してからも数学に取り組み続けたと言われています。なんとなく記憶を失っても数学を愛し続けた博士と重なる部分がありそうですね。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。