本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『頼むから、ほっといてくれ』紹介

 こんにちは。

 突然ですが、秋と言えばスポーツの秋!気持ちのいい秋空に過ごしやすい気温、身体を動かすにはもってこいの季節になりました。

 と言うわけで、10月のテーマは『スポーツ』です。

 全国高等学校体育連盟によると、令和4年の体操部の部員数は男子1674人、女子2506人でした。高校生全体では約300万人なのでおよそ0.13%、だいたい750人に1人が体操部に所属していることになります。体操と言えばオリンピックでは定番の人気種目ですが、高校の部員数は思ったよりも少ない?そして女子が多いのもやや意外でした。

 さて、今回は桂望実さんの『頼むから、ほっといてくれ』を紹介します。普通の部活動ではなく、ナショナルチームに所属してオリンピックを目指す若者たちを描いています。

 

 

〇あらすじ!

 トランポリンの大会で途中までしか演技することができず、悔し涙を流す順也。大人しかった息子の流す涙に、母の明美は罪悪感を覚えていた。青山はナショナルチームの監督として選手とどう接すればいいのか悩んでいた。体操選手の父母を持つサラブレッドの遼、大会で実力を発揮できない慌て者の慎司、お調子者の洋充、緊張したことがない卓志たちも、将来のことに悩みつつも練習に励んでいた。

 

〇感想!

 本作は世間的にはあまり知られていないトランポリンの世界を描いています。全身を使って何度も空高く飛び上がるトランポリンはなんとなく楽しそうなイメージがありますが、本作に登場する選手たちはそれぞれに葛藤しながらトランポリンと関わってきました。それは単に体の使い方の話だけではなく、もっと切実な問題です。トランポリンに限らず、マイナー競技はそれだけで生活するのが大変です。スポンサーが付くのはごく一部だけで、真剣に取り組みたいと思っていても、生活するためには働いてお金を稼ぐ必要があります。競技を優先するために何を犠牲にするのか、時には諦めるといった選択肢も選ばざるを得ません。ただ楽しい部分だけを描くのではないところが本作の見どころの一つとなっています。

 マイナー競技者にとって、オリンピックは最高の舞台になります。4年間オリンピックを目指してきつい練習を耐えています。ですが、日本中の注目が集まるあまり、選手に日本という国を背負わせてしまうことにもなります。「頑張れ」という言葉は便利ですが、無責任な期待を押し付けているのでした。まさに「頼むから、ほっといてくれ」という言葉がぴったりです。

 本作の面白いところは、選手たちがエリートばかりではないというところでした。優秀な子が突然引退したり、オリンピックの大舞台で不完全燃焼で終わってしまったり、一度引退した後にカムバックしたりと、まさに人生いろいろ。現実だと、スポーツ選手というと優秀な若い選手にばかり注目が集まり、その人が失敗したとたんに手のひらを返したような扱いを受けることが多い気がします。それだとどうしても「消費」的な見方になってしまって心から楽しめないし、有望な選手を潰してしまうことにもなってしまいます。かと言って、全く注目されなければその競技そのものが廃れていってしまうのも、また難しいところですね。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。