本をめぐる冒険

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『建築家になりたい君へ』紹介

 こんにちは。

 もうすぐ待ちに待った夏休み!夏休みと言えば、宿題の定番である読書感想文

 とは言え、あらためてまとまった文章を書くのはなかなか大変ですよね。ついつい後回しにして、最後に泣く泣くやることになるのはよく聞く話です。元学生の方には、今となっては懐かしい思い出かもしれませんね。

 というわけで、今月は今年(2022年)の課題図書に指定されている作品を読んでいきます。今回は隈研吾さんの『建築家になりたい君へ』を紹介します。高校生向けの一作となります。

 

 

〇あらすじ

 新国立競技場を設計した著者が、なぜ建築家を目指したか、これまでどんな建築を手掛けてきたか、建築に対してどのような考えをしてきたかを振り返りながら、建築家になるために何が必要かを論じる。

 

〇私なりの感想文

 「建築家」と言われると、一般人とは違った個性的で独創的な美意識を持っているイメージを想像してしまいます。テレビで紹介されているものの中には、芸術的で奇抜だが住みづらそうな建物や、何十億とかかるような派手な建物もあります。そんな独善的ともいえる建築家が多い中、隈研吾さんは「普通の人が使いやすいものが分かる人こそが建築家」だと考えているのだそうです。隈さんの建築家観はその生い立ちにも深く関わっており、本書ではその半生を辿りながら出会ってきた建築について分析的に見ています。

 隈さん曰く、建築家に必要なのは「時代を読む力」だそうで、本書の中でも彼の鋭い時代観が発揮されています。例えば1回目の東京オリンピックに建設された国立代々木競技場は、高さを演出することで経済的に急成長していたこの時代の日本を象徴しているといった風に、建物からその時代や人々の気分を見ていきます。建物という形あるものを作っていくために、目に見えない時代の流れや人々の心を読むというのがまた面白いですね。「東京一極集中により高層ビル化が進んだ時代が新型コロナで終わり、リモートワークの浸透により地価の安い地方への移住が進んでいく」という未来の捉え方もすごく興味深かったです。高層ビル化という大きなハコの流れでは人々はストレスを抱えることになりますが、それも解消されていくそうです。個人的には是非そうなってほしいですが。

 そういえば同じ課題図書である『すうがくでせかいをみるの』という絵本に、「すきなものでせかいをみる」という言葉が出てきました。数学や絵や虫といった、自分の好きなものを通して世界を捉えるという意味です。まさに建築という分野でそれを実践しているのが隈さんなのではないかなと思いました。読書をしていると、全く関係のない作者が実は同じことを主張している、ということがたびたびあります。そうした発見ができるのも読書の面白さのひとつですね。

 また、本書を読んで、隈さんはある日突然建築家になったというわけではなく、これまでの積み重ねが隈研吾さんという人間を形作っているのだと思いました。本作で指摘されている「時代を読む力」や「他人を説得する力」などは、一朝一夕で身に付くものではありません。建物に興味を持ってから多くの建物を見て自分なりに研究したからこそ、建築家になるための土台が形作られてきたのだと思います。それはおそらく、建築家だけでなく他のあらゆる職業についても言えそうです。いきなり新しい自分になることはできなくとも、少しづつ積み重ねていくことで成長に繋がっていくのだと思いました。

 本書は課題図書の中でも高校生向けに分類されています。高校生と言えば、将来の進路についてある程度本格的に考え始める頃でしょうか。『建築家になりたい君へ』というタイトルですが、建築家を目指している人はもちろん、進路に迷っている人にも読んでもらいたい一冊でした

 ここまで読んでくださってありがとうございました。