本をめぐる冒険

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鮮やかなトリックが面白いミステリー『斜め屋敷の犯罪』紹介(ネタバレなし)

 こんにちは。

 今日は島田荘司著『斜め屋敷の犯罪』を紹介します。

 ネタバレなしで書いていきます。

 

〇どんな本?

 『占星術殺人事件』で鮮烈なデビューを果たした本格ミステリー作家・島田荘司さんの2作目にあたります。

 御手洗潔シリーズとしてはデビュー作に続いて2作目となります。探偵が趣味の占星術師・御手洗潔と語り手である石岡和巳のコンビが活躍する物語となっており、真面目な石岡君に比べて、御手洗の際立った変人っぷりも魅力の一つです。

 初出は1982年ですが、完全版が2008年(文庫版は2016年)に発売されており、今読むならこちらがおすすめです。

 

〇あらすじ

 宗谷岬に建つ流氷館、通称「斜め屋敷」で開かれたクリスマスパーティー。翌日、招待客の一人である上田が奇妙な遺体となって発見された。現場は密室、加えて全員に動機がなかった。一同が頭を悩ませている間に、またもや密室殺人事件が起きてしまう。東京から応援にやって来た御手洗潔はなにやら奇妙な行動をはじめて・・・。

 

〇ここからが面白い!

 いきなりですが、本作の一番の見どころは、何といってもトリックの秀逸さにあります。不可能だと思われた状況、いくつもの奇妙な謎、御手洗の行動、全てのピースが伏線となって、最後には一つのパズルが完成します。

 個人的には島田荘司さんの一番の特徴は、他に類を見ないほどのその大胆なトリックにあると思います。ありえない状況での殺人、さらなる不可解な謎が次から次へと出てきて、いったいどう収集を付けるのだろうと思ってしまいますが、最後には鮮やかな解答が示されます。

 本作のトリックは中でも素晴らしい出来だと思います。最後の『あの』トリックを読んだときは、その見事さにとても興奮しました。

 もちろん、本格ミステリーらしくヒントとなる伏線はこれまでの文中に十分に散りばめられています。読者への挑戦もあるので、自身のある方は是非謎に挑んでみてください。

 もう一つの魅力は、読者を飽きさせない描写です。あまり注目されないのですが、御手洗潔シリーズはユーモアさに関してはミステリー作品の中でもかなり高いのではないでしょうか。

 登場人物たちが蘊蓄(うんちく)を語るのですが、その知識がとにかく幅広いです。そのあたりの背景がしっかりしているので、いつの間にか奇妙な世界観に入り込んでいきます。

 一方で事件が起きてから登場人物たちがギスギスしだすのですが、そこでは一転してコメディーっぽい面白さがあります。

 それから何といっても、主人公・御手洗潔の奇人っぷりが挙げられます。いきなり演説をはじめたかと思えば現場を荒し、石岡君が心配するほど周りの人間を怒らせ、それでいて本人はどこ吹く風。一見状況を引っかき回しているだけのように思えるのですが、それらもすべて伏線となっています。

 こうした描写により、ともすれば殺人事件で陰惨になりがちな、またはトリックのための説明に偏りがちなミステリー作品の中でも、独特な雰囲気があると思います。

 最後に一つだけ注意点をあげておくと、御手洗が登場するのが物語が3分の2ほど進んでからとやや遅いです。ミステリー作品の宿命で、事件が起こってからでないと名探偵が出て来れないのです。御手洗がすぐに事件を解決する名探偵であるがゆえに登場が遅くなってしまう、とも言えます。それまでは不可解な謎、蘊蓄、ユーモアと幅広い描写を楽しみつつ、名探偵の登場を待ちながら読んでほしいと思います。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。