本をめぐる冒険

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『最終定理』紹介

 こんにちは。

 皆さんは「数学」と聞くと、何を思い浮かべますか?多くの人が抽象的で難しいと考える一方、他にはない論理的な純粋さや美しさを感じる人もいたりと、結構好き嫌いが分かれる分野です。また、一般的には小説のような文学とは対極にあるイメージだと思います。ですが、数学を題材とした本というのも実は数多く書かれています。

 というわけで、8月のテーマは『数学』です。

 さて今回は、アーサー・C・クラークさんとフレデリック・ポールさんの『最終定理』を紹介します。共同作者のうち、クラークはアイザック・アシモフロバート・A・ハインラインと並んでビッグスリーと呼ばれたSF作家で、本作は彼の遺作となります。

 

 

〇あらすじ

 スリランカの大学生ランジット・スーブラマニアンはつまらない授業に退屈を感じていた。さらに父に親友ガミニとの交流を反対され、ガミニ本人もロンドンに転校してしまう。そんな中でも、ヴォーハルスト博士の天文学の授業には面白さを見つけ、フェルマーの最終定理についてマイラという女学生と話して仲良くなる。

 一方、原爆実験により宇宙に向けて発生した放射線を感知した知性体が存在した。

 

〇数学と物語と

 数学科に所属するランジットの大学での生活がメインなのですが、途中でグランド・ギャラクティスやナイン・リムズといった地球外生命体が登場してきます。ランジットが父と不仲になったり親友と別れたりしている間に、不気味な知性体が活動している場面が淡々と描写されるのが意外で面白かったです。私は普段SF小説はあまり読まないのですが、本作は読みやすい青春小説がだんだんとSFになっていくのが新鮮でした。

 原爆の放射線が遥か彼方の知性体に届いてしまい、危険を感じた彼らが地球に向かってきます。知性体は銀河全体を管理することを目的としており、他の星を攻撃するような兵器を生み出した星を滅ぼして秩序を保ってきました。地球内でも戦争や紛争に関する描写が多く、ランジットも巻き込まれていきます。それらは現代社会への皮肉にも感じました。

 さて、本作には例のフェルマーの最終定理が登場します。ワイルズの証明はあまりにも難解すぎるもので、17世紀のフェルマーが思いついた証明とはとても思えないものでした。証明の過程では新しい数学の分野が発展してきましたが、最終的な証明を理解できるのは世界にも数人しかいませんでした。ランジェットはもっと簡潔な証明を求めました。現実でもフィクションでも人々を惹きつけるのは、フェルマーの最終定理の持つ特別な魅力のためでしょうか。

 本作のラストシーンは結構ごちゃごちゃしており、巨匠の遺作と考えると正直ちょっと物足りない気もしました。もしかしてフェルマーの最終定理の証明の難解さを難解なSF小説として表そうとしたのかも?そう考えると数学も小説も似ているかもしれません。とにかく最後に新しいことに挑戦しようとしていたことは間違いなさそうですね。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。