本をめぐる冒険

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『第四次元の小説』紹介

 こんにちは。

 皆さんは「数学」と聞くと、何を思い浮かべますか?多くの人が抽象的で難しいと考える一方、他にはない論理的な純粋さや美しさを感じる人もいたりと、結構好き嫌いが分かれる分野です。また、一般的には小説のような文学とは対極にあるイメージだと思います。ですが、数学を題材とした本というのも実は数多く書かれています。

 というわけで、8月のテーマは『数学』です。

 さて今回は、ロバート・A・ハインラインさんらの『第四次元の小説ー幻想数学短編集』を紹介します。数学の問題をテーマとしたSFアンソロジーとなっています。

 

 

〇あらすじ

 サード教授は、数学ができない私が彼の娘と結婚するための条件を出す。それは、無限速度の原理を求める問題だった。(エドワード・ペイジ・ミッチェル『タキポンプ』)

 建築家のティールは、友人のベイリーのために1部屋分の敷地に8部屋分の家を建てる。実際に入ってみると、4次元に繋がっていて脱出できなくなってしまう家だった。(ロバート・A・ハインライン『歪んだ家』)

 ボストンの地下鉄は複雑で美しい図形をしていた。ある日、86号電車が消えてしまうという事件が発生する。数学者のタペロによると、複雑な線路がメビウスの輪のようになっているという。(A・J・ドイッチュ『メビウスという名の地下鉄』)

 数学科のランサム教授は哲学科のマックテイトに代数ができない学生について相談する。その学生の髪を入れたブードゥー人形を作り、人形に数学を教えることになる。(H・ニアリング・Jr『数学のおまじない』)

 最後の魔術師と呼ばれたダニーンはクラインの壺からの脱出マジックを行うことになる。彼は火星人の助手アイダに暴力をふるっていたが、アイダは彼に惚れていた。(ブルース・エリオット『最後の魔術師』)

 ベンブリッジ氏は「6頭のチンパンジーが100万年の間タイプライターを叩いたら、大英博物館にあるすべての書物を打ち出す」と聞き、それを実践してみることに。(ラッセル・マロニー『頑固な論理』)

 サイモンは悪魔を呼び出し、フェルマーの最終定理が正しいのかを尋ねる。悪魔はあらゆる手段を使って確かめようとする。(アーサー・ポージス『悪魔とサイモン・フラッグ』)

〇数学と物語と

 数学をモチーフとした、比較的古めの7編の短編小説が収録されています。どの短編も一癖あって面白く、いろんな作者の作品が読めるのが嬉しいですね。論理的な学問である数学を扱っていながら、同時にSFやファンタジーのような要素も含んでいます。読んでいるうちにいつの間にか非現実の幻想の世界に入り込んでいる、という印象でした。

 今回登場する数学は、

・無限速度の原理(加速する列車の上でさらに加速することを繰り返すことで無限速度を得ることができるのか?)、

・四次元に繋がった過剰空間、

メビウスの輪

ブードゥー人形(これだけ数学ではなく呪術ですが)、

クラインの壺

・確率論と実感のギャップ、

・そして、もはや定番とも言えるフェルマーの最終定理

となっています。数学の問題というよりもパラドックスの要素が強いですかね。

 この中では、個人的に『メビウスという名の地下鉄』の設定と雰囲気が好きです。地下鉄を走っていた車両が忽然と消えてしまうというのは、名作ミステリーっぽさがありました。また、『数学のおまじない』は数学そのものはあまり関係ないですが、オチがきれいに決まっているのでお気に入りです。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。