本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

時代を感じる本格ミステリー 『死の発送』紹介

 こんにちは。

 今年5月29日には日本競馬界でも最も特別なレース・日本ダービーが開催されます。今月はそれにちなみ、『』まつわる本を読んでいきたいと思います。

 1941年の第10回日本ダービーを制したのはセントライトでした。前夜までの雨の影響で重馬場となったレースでしたが、2着に8馬身もの差をつける圧勝だったそうです。その後の菊花賞でも勝利を飾り、史上初のクラシック三冠に輝きました。太平洋戦争中だったこともあり、当時の世間的な注目度は低かったそうですが、戦後になってからはその名を冠したセントライト記念が創設されています。

 さて、今回紹介するのは、松本清張さんの『死の発送』です。裏表紙には「競馬界を舞台に」とありましたが、トリックの一部として馬の絡んだミステリー小説といった感じでした。

 ミステリー作品のため、ネタバレなしで書いていきます。

 

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〇あらすじ

 三流新聞の記者である底井武八は、出所したばかりの岡瀬正平を見張っていた。5億円の横領犯である岡瀬は1億円をどこかに隠していると噂されていた。その後、岡瀬は彼の母親の墓のある福島で殺害されてしまう。さらに、底井に見張りを命じていた上司の山崎までもが失踪する。山崎は独自に岡瀬のことを探っており、府中競馬場に探りを入れていたようだった。数日後、郡山に放置されたトランクの中から山崎の死体が発見されたのだった。

 

〇この馬がすごい!

 トランクを駅に預けに来た本人が、2日後にそのトランクの中から死体で発見される、というのが本作のメインの謎になります。似たような作品にクロフツの『樽』、鮎川哲也さんの『黒いトランク』などが挙げられます。トランクの中に死体が詰められているというのは、いかにもトリックを仕掛けられていそうな本格ミステリーらしさがある一方、現実でもありそうで不気味にも感じます。

 トリックに絡んでくるのが競走馬の輸送でした。非常に繊細な生き物である馬は長時間の輸送によりストレスを受けてしまいます。今は馬運車と呼ばれる車で細心の注意を払って輸送が行われますが、この時代は専用列車に乗せて長距離移動をしていたようです。そのことが本筋に大きく関わってくるのですが、今では使えないトリックですごく時代を感じますね。

 また、底井の探偵っぷりが面白いです。口を閉ざそうとする目撃者をうまく丸め込んだり、時に身分を偽ったり、時に情に訴えたりと、いろいろな手段を用いて謎に迫っていきます。謎解きの面白さだけでなく、どうやって情報を辿っていくのかという面白さが詰まっていたと思います。昭和に書かれた小説なので、プライバシーの意識が今とは全然違っていたところも面白かったです。

 昭和という時代ならではのミステリーでした。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。