本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

馬と馬に関わる人間たちを描く『黄金旅程』紹介

 こんにちは。

 今年5月29日には日本競馬界でも最も特別なレース・日本ダービーが開催されます。今月はそれにちなみ、『』まつわる本を読んでいきたいと思います。

 1932年、日本ダービー第1回を制し栄えある初代ダービー馬に輝いたのは、ワカタカという馬でした。前走10馬身以上の大差勝ちを収めたワカタカは、ダービーでは1番人気に推されます。それに応えて2位に4馬身差をつけて逃げ切り勝ちを収めました。当時の優勝賞金は1万円でしたが、当時の大卒初任給が70円だったことを考えると破格の賞金だったようです。

 さて、今回紹介するのは、馳星周さんの『黄金旅程』です。

 

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〇あらすじ

 小さな養老牧場を経営するわたしは、放牧に帰ってきたエゴンウレアの装蹄を担当する。彼はGⅠを制する実力を秘めながらもその気性の荒さからレース本番で力を発揮することを嫌い、シルバーコレクターと呼ばれていた。同じころ、幼馴染の亮介が牧場へとやってくる。亮介は将来を嘱望されながらも覚せい剤により引退した元騎手だった。

 

〇この馬がすごい!

 本作の主人公の一人ともいえるエゴンウレアには明確なモデルが存在します。作中でも言及されていますが、それはステイゴールドです。

 スティービー・ワンダーの同名の曲にちなんで名付けられたこの馬は、レース中に他の馬にかみつこうとするなど気性の荒さはかなりのものでした。重賞レースに勝つことができずに惜敗が続き、稀代のシルバー・ブロンズコレクターと呼ばれて人気を博することになります。目黒記念で念願の1着を取ったときには、GⅠのレースでもめったにないスタンディングオベーションが起きたそうです。その後、ドバイシーマクラシックを制し、ラストランとなる香港ヴァースでも1着を取って有終の美を飾りました。引退後は種牡馬となり、三冠馬となるオルフェーブルやGⅠ6勝を挙げたゴールドシップを輩出しています。

 本作はまずタイトルが本当にカッコいいですよね。黄金旅程というのはステイゴールドの中国での表記なのだそうです。この馬にぴったりのいい名前だと思いました。ストーリーの流れもエゴンウレアが1着を取るまでを、その周囲の人々に絡めて描いています。競馬を愛する人、馬を愛する人、一度は競馬から締め出された人、競馬に憧れる人など、一口に馬にかかわる人といってもそれぞれが色々な考えを持っています。そんな様々な人の思いを背負ってエゴンウレアは走ります。多くの場合はこちらの意図を見透かしたように言うことを聞きませんが。サラブレッドを生み出して利用する人間のエゴもありますが、それでも馬の走る姿に魅せられてしまうのが競馬のロマンなのかもしれません。

 この地球上で唯一人間だけが言葉を話すことができます。もしかしたらそれは結構孤独で寂しいことなのではないでしょうか。他の生き物とも通じ合いたい。そんな思いがあるからこそ、馬をただの家畜としてだけでなく、時に愛をもって大切にするのかもしれません。そんなことを思いました。

 余談ですが北海道料理がすごくおいしそうでした。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。