本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『戦場のピアニスト』紹介

 こんにちは。

 みなさんは、秋と言えば何を思い浮かべますか?読書の秋ももちろんいいですが、秋と言えば芸術の秋ですね。たまには優雅なピアノの演奏に耳を傾けたくなります。

 というわけで、9月のテーマは『ピアノ』になります。

 現在のピアノには3本のペダルが付いており、これによって音の強弱や響きを変えることができます。1843年、ルイス・シェーンがシューマンメンデルスゾーンのために作った「ペダルピアノ」には実に29本ものペダルが付いていたそうです。ピアニストの手だけでなく、華麗な足さばきにも注目したいですね。

 さて今回は、ウワディスワフ・シュピルマンさんの『戦場のピアニスト』を紹介します。ポーランドのピアニストによる第二次世界大戦時の体験をつづった手記で、本作を原作とした映画が大ヒットしたのでご覧になった方も多いかと思います。

 

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♪ あらすじ

 ドイツ軍がポーランドに侵攻し、ユダヤ人はゲットーに押し込められ迫害される。家族は列車で連れていかれてしまい、シュピルマンは廃墟と化したワルシャワの街で一人孤独にさまよう。ある日、食糧を漁っているときにドイツ人将校に見つかってしまう。

 

♪ 本の間奏

 本書にはドイツ軍侵攻時の体験が経験者の目線から詳細に書かれており、ユダヤ人迫害の様子もよく分かります。空腹のあまり地面に零れたスープをすすったり、死を賭して反抗しようと言われても立ち上がる気力さえなかったりと、シュピルマンがそのときに思ったことも併せて克明に描かれています。戦争がもたらす残酷さは、単に悲劇という言葉では語り尽くせない生々しさがありました。

 本作の中でもひと際印象に残るのは、やはりラストでのドイツ人将校との出会いのシーンです。身を隠しているところを発見されたシュピルマンはすべてを諦めましたが、将校はピアノを弾いてくれないかと頼みました。シュピルマンは震える手で「ノクターン嬰ハ短調」を弾きます。将校はシュピルマンを励まして食料を提供しました。最後は名前も告げずに別れます。まるで本当に映画のワンシーンのようですが、現実が小説を超えることもあるとも思いました。ずっとつらい展開ばかりだったので、救われて本当に良かったです。本書にはホーゼンフェルト将校の手記も併せて載せられています。彼はナチスに疑問を抱き、ドイツ人であることを恥じてさえいました。そんな二人が出会ったのは本当に奇跡のようなことだと思いました。

 人間は醜さと美しさの両方を兼ね備えていることがよく分かります。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。