本をめぐる冒険

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【歴史×ミステリー】直木賞受賞作『黒牢城』紹介

 こんにちは。

 本日は米澤穂信さんの『黒牢城』を紹介します。

 米澤さんと言えば青春ミステリーやこちらで紹介したようなややダークな短編ミステリーの印象が強いですが、『黒牢城』はこれまでとは全く違った雰囲気になっています。デビュー20周年で全く新しい作風に挑戦するのは素晴らしいことですね。

 本作はミステリー大賞4冠を達成、山田風太郎賞も獲得、そして今年度の直木賞を受賞しています。特にミステリー大賞4冠達成は史上初とのことでした。まさに今年を代表するミステリー小説と言えます。

 今回もネタバレなしで書いていきたいと思います。

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Michal JarmolukによるPixabayからの画像

〇どんな本?

 『黒牢城』は、

 を受賞しました。

 本作は数少ない歴史ミステリーです。歴史ミステリーには、『時の娘』のように現代の探偵役を主人公とし歴史上の謎を現代の視点から推理するパターンと、『ベルリンは晴れているか』のように歴史上の人物を主人公にしてその時代の視点から推理するパターンがありますが、本作は後者に該当します。

 本作では、織田信長による本願寺攻めの最中である天正6年(1587年)を時代設定にしています。信長に反旗を翻し有岡城に籠城する荒木村重と、使者として有岡城を訪れたものの生きたまま牢に繋がれる黒田官兵衛が、城内で起こる不可解な事件の謎に挑みます。

 全4章+序章と終章で構成され、主に4つの事件が登場します。一見すると連作短編風ですが、最後にすべての事件が一つに繋がり、官兵衛の策略やこの後の史実もうまく絡めて結末へと至るので、長編小説でもあります。

 官兵衛は事件現場に行かずに事件を解決に導くので、「安楽椅子探偵」でもあります。

〇あらすじ

 大和田城の降伏に対し、人質である阿部自念を牢につなぐ村重。厳重な警護にも関わらず、翌朝自念は殺されていた。雪の積もった現場には足跡がなく、凶器の矢も消えていたのだった。(第一章 雪夜灯籠)

 毛利軍を待ち続ける村重は士気の低下を思い、雑賀衆と高槻衆を率いて敵陣に夜討ちを掛けた。首実検を行うもどちらが大将首を挙げたのか分からず、城内に不和を生む。しかも翌朝、首が凶相に変わっており・・・。(第二章 花影手柄)

 夏の暑さに加え、宇喜多の寝返りにより毛利からの援軍は絶望的な状況に。村重は、旅の僧である無辺を使者として派遣しようとする。だが出立前に無辺が殺害されているのが発見された。(第三章 遠来念仏)

 先の見えない状況に家臣たちの心が離れていくことを悟る村重。城内にいる謀叛人を探すべく、官兵衛のいる土牢へと向かった。(第四章 落日孤影)

〇ここから面白い!

 連作短編風ですが、全体として読み終わったときに特に面白いと感じる小説でした。

 まず純粋にミステリーとして面白かったです。一つ一つの事件は完結しているように見えて、最後には一つに繋がりミステリーとして意外性のある結末が待っています。もちろん、ところどころに細かな伏線が張り巡らされており、きちんと本格ミステリーとしてフェアに勝負しています。その点はさすが力のあるミステリー作家だと思いました。

 また、歴史ミステリーとしてもとても良い出来でした。史実に対する新たな解釈があるのが歴史ミステリーならではの面白さですが、本作にはその部分も面白かったです。すでに結果の決まった史実と組み合わさった結末に至るのですが、それがバッチリハマっています。「史実」は結果が決まっていますが、「歴史」となると解釈が入る余地があるのがまた面白いところですね。

 荒木村重黒田官兵衛について多少の知識があった方がより楽しめる気もしました。

 普通のミステリーとも違う、普通の時代小説とも違う、歴史ミステリーならではの醍醐味を味わえました。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。