本をめぐる冒険

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『数学者の夏』紹介

 こんにちは。

 皆さんは「数学」と聞くと、何を思い浮かべますか?多くの人が抽象的で難しいと考える一方、他にはない論理的な純粋さや美しさを感じる人もいたりと、結構好き嫌いが分かれる分野です。また、一般的には小説のような文学とは対極にあるイメージだと思います。ですが、数学を題材とした本というのも実は数多く書かれています。

 というわけで、8月のテーマは『数学』です。

 さて今回は、藤本ひとみさんの『数学者の夏』を紹介します。タイトル通り数学というテーマで、季節的にも今の時期に合っていますね。

 

 

〇あらすじ

 夏休み、和典は静かな環境で一人数学に集中しようと、学生村の制度を利用して伊那谷にホームステイする。しかしうまくいくと思っていた計算に行きづまり、田舎の雰囲気にもうまく馴染めていなかった。かつての恋人だった彩に偶然再会し、この村で起きている事件の捜査を一緒にやろうと持ち掛けられるが断った。その後、なくしたと思っていた計算用紙が見つかったが、そこには和典が思いもつかないような方法が書かれていた。

 

〇数学と物語と

 本作にはリーマン予想という難問が登場します。リーマン予想とは、クレイ研究所のミレニアム懸賞問題の一つで、以下のような問題です。

ゼータ関数の零点が、負の偶数と実部が1/2の複素数に限られる』

 正直、何を言っているのか理解するのも難しいです。ですが、リーマン予想が解決すれば素数の分布について分かると考えられており、数学的にも社会的にも重要な問題であるとされているそうです。

 本作の主人公は高校生ながらこの世紀の難問に挑んでいます。学校ではみんなで協力してリーマン予想に向かっているのですが、和典は独自の方法でやりたいと思っており、半ば逃げるように伊那谷にやってきました。しかし自分の進んでいる道が正しいのか、他の人が自分よりも先に解決してしまうのではないのか、悩むことになります。結局、昔の恋人である彩との再会をきっかけに、伊那谷で起きている事件に首を突っ込むことになります。周囲が煩わしいと思っていたのに、いざ一人になると他の人の事ばかり気になってしまうものですね。

 爽やかそうなタイトルと高校生たちの若さが眩しく感じますが、実は後半では人間の醜さが表れた生々しい展開になっていきます。殺人事件こそ起きないものの、そうしたギャップがあるのも本作の特徴の一つと言えそうです。

 また、本作の主人公・和典やその友人たちを主役とした他の作品もあるみたいですね。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。