本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『渚にて 人類最後の日』紹介

 こんにちは。

 早いもので今年ももう12月。2022年もまもなく終わろうとしていますね。みなさんにとって、今年はどんな年でしたか。

 8月には、映画『ONE PIECE FILM RED』が公開され大ヒットを記録しています。原作の漫画は、「最も多く発行された単一作者によるコミックシリーズ」としてギネス記録に認定されています。

 今年も色々ありましたが、なるべくやり残したことのないように年の終わりを迎えたいですね。

 というわけで、今月は「世界の終わり」をテーマに本を読んでいきたいと思います。

 さて、今回はネヴィル・シュートさんの『渚にて 人類最後の日』を紹介します。

 

 

〇あらすじ

 核戦争により北半球は壊滅し、人類最後の拠点となったオーストラリアにも風に乗って放射能が迫っていた。一隻だけ生き延びたアメリカの原子力潜水艦スコーピオン>に、存亡をかけた任務が課せられる。それは死の土地となった北半球へ向かい、シアトルから発せられているモールス信号に応えること。連絡仕官に任命されたピーターは、艦長のタワーズを自宅に招き、出発前の最後の時間を過ごす。

 

「世界の終わりというわけじゃありません。ただ<人類の終わり>というだけで。世界はこのまま残っていくんでしょう、そこにわれわれがいなくなってもね。人間など抜きにして、この世界は永久につづいていくんです」

 

〇感想

 本作では、核戦争により世界が終わります。物語開始時点で北半球はすでに滅んだ後で、高濃度の放射能がオーストラリアにやってくるのも時間の問題でした。北半球とは連絡を取ることができず、どうして核戦争が起こったのかも定かではありません。直接戦闘が起こらなかった地域でも、地形や建物はそのままなのにただ生きている人間が誰もいないというのがまた恐ろしいところです。にもかかわらず延々と発信され続けているモールス信号とその真相にも、何とも言えない不気味さを感じました。さらに、本文の淡々とした描写がテーマと合っていて絶妙ですね。登場人物たち同様、我々もそうした情景を潜水艦の中から見ていることしかできません。本作が書かれた1957年は、まさに冷戦真っ只中でした。「核兵器」という言葉が持つ意味も今とは違っていたでしょうし、ある意味でフィクションよりも現実に近いSF小説と言うこともできます。できることなら、当時の雰囲気の中で読んでみたかった気もしますね。

 そんな絶望的な状況の中、残された人々が最後の時間をどう過ごすのかも本作の見どころとなっています。世間ではパニックが起きて略奪が横行する中でも、タワーズやピーターたちは誇りを持って最期を迎えようとします。恋人や家族と過ごしたり、鱒釣りや庭いじりなど好きなことをやったりと、どんな状況でも狂気に飲まれることなく人間らしさを失いませんでした。まもなく世界が終わるからこそ、最後まで人間らしく生きようとする意味が生まれてくるのが面白かったです。

 圧倒的なリアリティのある、名作の名にふさわしい密度のある作品でした。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。