本をめぐる冒険

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『新書太閤記』紹介

 こんにちは。

 天正10年6月2日(新暦に直すと1582年6月21日)は、本能寺の変が起こった日です。織田信長は家臣である明智光秀の謀反により、天下統一を目の前にしてその生涯を閉じることとなりました。信長といえば、好きな歴史上の人物ランキングなどで1位に輝くことが非常に多く、その人気は数多の歴史的英雄の中でも極めて高いです。なぜ信長はそれほどまでに人気があるのでしょうか。今月はそんな魅力的な英雄・信長が登場する小説を読んでみたいと思います。

 信長は1534年(天文3年)、尾張の虎と呼ばれた戦国大名織田信秀正室の土田政久の娘との間に生まれました。子供時代の信長(幼名「吉法師」)はとにかく自由奔放で奇行が多く、周囲からは「うつけもの」と呼ばれたというエピソードは有名ですね。13歳で元服し、15歳で初陣を経験。このころ竹千代(のちの徳川家康)が織田家の人質として尾張に滞在していますが、信長と出会ったとする明確な資料は見つかっていないそうです。

 さて、今回紹介するのは、吉川英治さんの『新書太閤記』です。いきなりですが、本作の主人公を務めるのは信長ではなく、信長の草履取りから太閤へと出世していく秀吉です。

 

 

〇あらすじ

 百姓の家に生まれた日吉は侍奉公するも、どこも長続きしなかった。そんな中、織田家の嫡男でありながらうつけ者と呼ばれていた信長に出会うことで、日吉の人生は大きく変わっていく。

 

信長の魅力、ここにあり!

 そのためか、本作の織田信長秀吉の才能を認めて自由にさせる器の大きな人物として描かれます。少年期は粗暴なうつけものとされますが、家督を継いで田楽狭間の戦いで勝利してからは真価を発揮。ただ戦いに勝って勢力を広げるだけでなく、天下統一を成し遂げて乱世を終わらせるという大目標を目指し、一気に突き進みます。我々が真っ先に思い浮かべる風雲児的な信長にも思えますが、戦国の乱れた世で自国のことだけでなく日本という国全体を考えている点が大器と言われるゆえんなのかもしれません。
 これには執筆時の時代背景が関連していそうです。本作は太平洋戦争中の1941年に執筆が開始され、戦後になってから完結しています。当時の迷走していく日本や軍の言いなりになる政治を見ると、多くの国が乱立していた戦国時代に日本全体を考えていた織田信長はまさしく「器が違った」のでしょう。「お国のため」と国民に強いるばかりで、政治家自身は誰も日本全体のことについて考えていなかったのではないか。深読みしすぎかもしれませんが、行間からそんなことを思いました。
 一方で、個人的には信長の孤高さについてのエピソードが印象に残りました。父の死後の墓参りでは家臣を追い払うのですが、主君として家臣の前で涙を見せることもできませんでした。浅井を攻めたときは義理の弟で気に入っていた長政に時間を与え、嫁いでいた妹のお市の方をなんとか助けようと秀吉を敵地へと派遣します。公になるということは私を捨てなければならず、誰にも本心を語ることができません。特に家臣に弱みを見せることはできず、いくらたくさんの兵を従えても信長は孤独でした。それが結果として光秀の謀反に繋がったと思うと、つくづく人の心の難しさを感じますね
 難点を挙げるとすれば、非常に長いことです。実は、筆者は晩年の秀吉の豹変が嫌いなため、本作の物語は家康との対決までで終わっています。それでも全11巻はとにかく長かったです。一つ一つの合戦や敵味方の動きについて詳しく描いてくれるのはありがたいのですが、細かすぎてひたすら歴史の年表を辿っているような気にもなってしまいました。例えば大河ドラマなら、映像もあって毎週少しずつ進むので楽しみにできるのですが・・・。言葉遣いも全体的に古くめかしく、今読むには若干読みづらい部分も多かったです。ですが、一夜城のような有名なエピソードはほぼすべて網羅されており、信長と秀吉について一通りの知識を得ることができます。おそらく本書の最も正しい楽しみ方は、3か月くらいかけて毎日少しずつ読み通すことなのかもしれません。
 ここまで読んでくださってありがとうございました。