本をめぐる冒険

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『アポロ18号の殺人』紹介

 こんにちは。

 今日は中秋の名月。一年で最も月が美しく見える日と言われています。思えば竹取物語の昔から人類は月への憧れを持っていました。1969年、アポロ計画により人類はその憧れを実現させました。

 と言うわけで、今回はクリス・ハドフィールドさんの『アポロ18号の殺人』を紹介します。著者のハドフィールドは、これまで3回も宇宙を経験している本物の宇宙飛行士です。

 

 

〇あらすじ

 テスト飛行中の事故で左目を失ったカズは、軍とクルーの連絡将校としてアポロ18号に関わることになる。打ち上げが迫る中、船長のトムが訓練中に死亡する事故が発生。バックアップクルーとしてチャドが参加することになり、ロケットの打ち上げは成功する。最初の任務として軌道上に浮かぶソ連偵察機接触するが、無人と思われていたそこにはコスモノートが乗り込んでいた。

 

〇感想

 本作はSFですが、遠い未来の話ではなく50年前の過去を描いています。時代は冷戦真っ只中の1973年、軍事的な目的から宇宙開発競争が活発に行われていました。衛星を打ち上げることで遥か上空から敵国を監視することができるためです。最初期に宇宙開発に先んじたのはソ連で、1957年に世界初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げました。次いでライカ犬を打ち上げ、1961年にはガガーリンが世界初の有人宇宙飛行を達成します。一方のアメリカは、アポロ1号がテスト中に爆発死亡事故を起こしてしまいます。その失敗を乗り越え、ついにアポロ11号が人類で初めて月面着陸を成功させました。その後、アポロ計画は最後のアポロ17号まで続くことになります。本作に登場する「アポロ18号」は当初行われる予定でしたが、予算の都合等により中止された計画でした。

 宇宙開発にはロマンもありますが、冷戦の対立が開発競争を加速させた部分も大きかったと言います。当時の宇宙飛行士は今と違って軍人が中心でした。本作からはこの時代ならではのシビアな雰囲気がよく伝わってきます。現代から考えると映画みたいな話ですが、当時は実際にありえたかもしれないと思うと面白いですね。

 著者が本職の宇宙飛行士だけあって、NASAに関する描写や宇宙船に関する描写が非常にリアルです。特にロケットの打ち上げシーンは圧倒的な迫力と独特の緊張感がありました。また、宇宙空間でのアクションの描写も多く、予断を許さないストーリーと相まってハラハラしました。これで長編小説は初執筆だと言うのだから驚きです。

 宇宙開発競争時代のリアルさと宇宙飛行に関する描写のリアルさ。本物の宇宙飛行士ならではのリアルさがあって面白かったです。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。