こんにちは。
天正10年6月2日(新暦に直すと1582年6月21日)は、本能寺の変が起こった日です。織田信長は家臣である明智光秀の謀反により、天下統一を目の前にしてその生涯を閉じることとなりました。信長といえば、好きな歴史上の人物ランキングなどで1位に輝くことが多く、その人気は非常に高いです。どうしてそんなに人気があるのでしょうか。今月はそんな信長が登場する小説を読んでみたいと思います。
1582年(天文21年)、父信秀が亡くなり、当時19歳だった信長が家督を継ぎました。葬儀では信長が父の遺体に向かって抹香を投げつけたという逸話が有名ですね。一方で翌年に子供のころからのお目付け役だった平手政秀が信長を諫めるために自害した際には、その死を悲しんだと言われています。家臣は信長派と弟信行を担ぐ反信長派とに分かれて対立することになります。柴田勝家や林秀貞といった、のちの信長政権の有力家臣たちも初めは信行側に付いていました。この時点での信長の味方となる人間はあまり多くなかったようですね。
さて、今回紹介するのは、山岡荘八さんの『織田信長』です。またタイトル通り、織田信長の生涯を描いた歴史小説となります。
〇あらすじ
尾張の山中で少女たちに相撲をさせている少年、彼こそ吉法師と呼ばれていた信長だった。うつけものである信長が織田家を継げば尾張もこれまでと、家臣たちも領民たちも嘆いていた。一方、隣国美濃ではマムシこと斎藤道三が、嫁いでいく濃姫に短刀を渡し、機を見て信長を殺すように言い含めていた。濃姫はもしも夫に惚れたら、この短刀で道三を刺すことになるかもしれないと返す。
〇信長の魅力、ここにあり!
本作の登場人物は、
歴史小説とは思えないくらいはっきりしたキャラクターを持っています。全5巻という長さもそれほど気にならないくらい、とにかくぐいぐいと引き込まれていきます。
特に信長は強烈な個性を持っています。子供のころは奇行ばかりでやはりうつけものと呼ばれますが、大人になっても周囲の常識に囚われず、常に何かしらの行動しています。一見すると突飛な行動にはそれぞれ明確な意図と目的があり、のちにタネが明かされると、それが実は最も合理的な方法だったことが判明します。そのあたりの説得力の付け方がうまく、かつテンポ良く進むので読んでいて楽しかったです。
また、信長の妻である
濃姫も、信長に負けないくらい切れる才女として描かれています。戦国武将の妻と言えば悲劇的に描かれることが多いですが、本作の
濃姫はほとんどもう一人の主人公と言ってもいいくらいに活躍します。信長の行動の意図を察し、時に先んじて助言までする姿はすごく気持ちがいいです。
少年期から青年期にかけての信長は青春小説のような爽やかさがあるのですが、後半になると信長の非情な面が出てきて全体的に暗くなってきます。個人的に印象に残っているシーンは、長島
一揆を制圧するときに信長が、
憐憫や人情がかえって悲劇を拡大すると悟るシーンです。天下統一のためには合理的な判断ですが、それを実行に移せるところが信長の凄まじさだと思いました。
他にも信長の意図を機敏に察して取り入っていく秀吉や、人質時代に鍛えられた忍耐力を持つ家康など、それぞれの持つキャ
ラクター性が際立っています。それだけに光秀が悲劇に向かって転げ落ちていく終盤は、読んでいて切なくなります。学問がありかつて辛酸をなめてきた光秀は信長の突飛な行動を察することができず、すれ違いが加速していきます。生真面目な光秀の人生観では信長を理解することはできませんでした。
荒木村重の謀反や家康の息子信康の
切腹といった事件も続き、さらに精神的に追い詰められていきます。人間は
自分の考えをそのまま他人にも当てはめてしまう、という作中の言葉はどんな人間関係にも通じそうです。光秀の裏切りについても彼の
人間性や人生観から説明しており、本作全体を通して
キャラクター性を重視する姿勢が貫かれていて、とても説得力がありました。
ここまで読んでくださってありがとうございました。