本をめぐる冒険

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『フェルマーの最終定理』紹介

 こんにちは。

 皆さんは「数学」と聞くと、何を思い浮かべますか?多くの人が抽象的で難しいと考える一方、他にはない論理的な純粋さや美しさを感じる人もいたりと、結構好き嫌いが分かれる分野です。また、一般的には小説のような文学とは対極にあるイメージだと思います。ですが、数学を題材とした本というのも実は数多く書かれています。

 というわけで、8月のテーマは『数学』です。

 さて今回は、サイモン・シンさんの『フェルマーの最終定理』を紹介します。300年以上も解けなかった数学史上最も有名な難問が証明されるまでの物語が、ドキュメンタリー風に紹介されています。

 

 

〇あらすじ

「私はこの命題の真に驚くべき証明をもっているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない」

 17世紀にフェルマーが残した問題は、数多くの数学者たちを悩ませると同時に、数学そのものを発展させてきた。この魅力的な難問が1993年の夏にアンドリュー・ワイルズによって証明されるまでには、時代を超えた数々のドラマがあった。

 

〇数学と物語と

 フェルマーの最終定理とは

3以上の自然数nについて、xn + yn = zn を満たすような自然数の組x,y,zは存在しない

 という命題を証明、もしくは反証せよ、というものです。一見シンプルに見えますが、実はこれが300年以上も数学者たちを悩ませてきた難問でした。本書では、その証明に至るまでが時系列を追って紹介されています。

 始まりは、三平方の定理で有名なピュタゴラスが活躍した古代ギリシャからです。ピュタゴラスの凄さは、初めて「証明」をすることで三平方の定理の正しさを示したことでした。それは主観なしの真理を手に入れたことを意味しました。実は、三平方の定理を「2乗」から「3乗以上」に変えたものがフェルマーの最終定理になっています。

 時代が下って中世になると、ヨーロッパの数学は暗黒時代に入ります。しばらく後、ニュートンが科学に数学を用いたことから、再び数学に目が向けられるようになりました。ここでようやくフェルマーの登場です。彼はかなりの秘密主義者で、他の数学者を挑発することもあったと言います。フェルマーの最終定理も『算術』という書物の余白に書き残したもので、それが後世の数学者たちへの挑戦になっていきます。

 その後、オイラーやソフィー・ジェルマン、コーシー、ラメ、クンマー、ヒルベルトラッセル、ゲーテル、チューリング、谷山豊、志村五郎といった数学者たちがその証明に挑み、少しずつ前進しては壁に当たってを繰り返すことになります。たとえ証明には至らなくても、新しい数学の一分野として発展していきました。数学的な証明の部分は正直難しかったですが、彼らにはそれぞれの人間ドラマがあって、そのお陰で飽きずに最後まで読むことができました。女性が数学を学べない時代に男のふりをして学校に通ったり、自殺する直前にフェルマーの最終定理の証明を見て思いとどまったりといったエピソードが印象に残っています。生まれた時代も国もバラバラな彼らが、フェルマーの最終定理という一つの問題を通して繋がっているというのも不思議な感じです。数学が世界共通言語と呼ばれるのも納得ですね。

 そして最後にバトンを受け取ったワイルズは、7年間もたった一人で研究を続けたそうです。現代の数学では共同研究が当たり前である中、彼は自分の進んでいる道が正しいのかも分からずに孤独に戦い続けました。ダミーとして別の研究をちょっとずつ小出しに発表することで、自分がフェルマーの最終定理に取り組んでいることを隠していたくらい、徹底して秘密主義を貫いていたと言います。最終的に証明したのが、フェルマーと同じ秘密主義者だったというのも不思議な話ですね。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。