本をめぐる冒険

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『天地明察』紹介

 こんにちは。

 皆さんは「数学」と聞くと、何を思い浮かべますか?結構好き嫌いが分かれる分野で、いわゆる文学とは対極にあるイメージだと思います。ですが、数学を題材とした小説も実はたくさん書かれています。というわけで、8月のテーマは『数学』です。

 今回は、冲方丁さんの『天地明察』を紹介します。第7回本屋大賞受賞作で、岡田准一さん主演で映画もヒットしました。

 

 

〇あらすじ

 数学を志す春海は、算額奉納された絵馬の問題を瞬時に解いたという関孝和という人物に驚く。本業である碁の指導に向かうと、老中の酒井から「退屈ではない勝負が望みか」と問われる。その問いに対し、春海は迷わず「はい」と答えるのだった。関に対しても全身全霊を懸けた問いを出すが、それは解答不能の問題だった。後悔に苦悶する春海だったが、えんに背中を押され、改暦という大事業に挑むことになる。

 

〇数学と物語と

 本作の主人公は渋川春海という実在の人物です。もともと将軍家に碁を教える碁方の家に生まれ、別名である安井算哲は父から受け継いだ名前でした。数学や天文学にも通じており、日本史的にもそれまでの宣明暦から、中国の授時暦を取り入れた貞享暦への改暦を進めた人物として知られています。本作では春海が窮屈な御城碁に退屈を感じており、数学や天文学に惹かれていく様子が描かれています。

 本作には主に伝聞という形でしか登場しませんが、関孝和というのも歴史上の人物です。当時の日本の数学である和算を大きく発展させた人物で、円周率を小数第11位まで正確に求めたり、ベルヌーイ数をヤコブ・ベルヌーイよりも少し早く発見したという逸話があります。

 また、テレビドラマ「水戸黄門」で有名な徳川光圀も登場します。落ち着いたおじいちゃんのイメージとは裏腹に、実際は若い頃は荒くれ者で、ラーメンやワインが好きという風変わりな人物だったそうです。春海は関や光圀はじめ、関わってきた多くの人々に認められ、改暦という大事業に挑むことになります。

 普段は意識しませんが、今日が何月何日であるのかを知ることができるのは暦があるからです。特に昔は日食は不吉なものと考えられており、日食を予測することはとても重要でした。今では、日食は数少ない一般的な天体イベントになっていますね。それくらい、我々は何の疑いもなく暦というものを受け入れていることに気が付きます。暦を決めるのは権威の象徴でもあり、だからこそ既得権益を壊してしまう改暦は一大事業でした。誰もやったことのない難題に挑んでいく緊張感や高揚感が、本作の見どころとなっています。

 さて、ここで数学ですが、本作には和算の問題が何問か登場します。例えば、関孝和が瞬殺した問題に、下図の内接円の直径を求めるという問題がありました。

冲方丁天地明察』より)

 直角三角形に内接する円のような問題は、和算では容術と呼ばれて頻繁に出題されたみたいです。他にも天文学にちなんだ問題なども載っているので、数学の腕に自信のある方は、腕試しとして挑戦してみるのも面白いかもしれませんね。もし解けたら「明察」ということになります。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。