本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『若き数学者のアメリカ』紹介

 こんにちは。

 皆さんは「数学」と聞くと、何を思い浮かべますか?多くの人が抽象的で難しいと考える一方、他にはない論理的な純粋さや美しさを感じる人もいたりと、結構好き嫌いが分かれる分野です。また、一般的には小説のような文学とは対極にあるイメージだと思います。ですが、数学を題材とした本というのも実は数多く書かれています。

 というわけで、8月のテーマは『数学』です。

 さて今回は、藤原正彦さんの『若き数学者のアメリ』を紹介します。数学者である藤原さんがアメリカに渡ったときの経験を綴ったエッセイです。数学3割・海外体験7割といった感じでした。

 

 

〇あらすじ

 初めてのアメリカで孤独を感じた私は、数学で奮闘するしか道はないと感じる。招聘されたミシガン大学では必死で準備した講演がめでたく高評価を受ける。しかしそこで燃え尽きてしまい、その後の身の振り方に悩む。さらにはミシガンの長く過酷な冬も加わって、ノイローゼとホームシックに苦しむことになるのだった。

 

〇数学と物語と

 本書はどちらかと言えば、数学的な話よりも海外体験記がメインとなっています。

 最初はミシガンへ行く前にハワイやラスベガスを見て回ります。真珠湾に行って周囲の人からありもしない敵意を感じたり、カジノで景気づけとばかりに散財したりと、ユーモラスな表現の中にどこか不安を感じてしまいます。それらは海外を過剰に意識していることの裏返しでした。さらに読んでいくと、藤原さんの負けん気が強さが伝わってきますが、講演の成功を機に燃え尽きてしまい、孤独の中でついにはノイローゼにまでなってしまいます。少し失礼な表現かもしれませんが、本来は優秀な数学者である筆者の人間臭い部分が垣間見えて面白く感じました。そこからいろいろな出会いを経てメンタル的に復帰していくところは、本書の見どころの一つです。特に、とある浜辺での少女との出会いは、映画みたいで美しいシーンでした。

 後半は、アメリカの教育環境や日本との比較についての考察が書かれており、こちらも興味深いになっています。大学に入ってから頑張るアメリカと、大学入学で燃え尽きてしまう日本の違いや、議論に強いアメリカ人と知識が豊富な日本人の違いは、今でもよく聞く話ですが、筆者の実体験が詳しく書かれているので説得力を感じました。また、海外でのアイデンティティの保ち方についての考察も興味深かったです。筆者曰く、変にアメリカに馴染もうとするのではなくて、あえて日本人として振舞った方が受け入れられやすいそうで、こちらも実感がこもっていてなるほどと思いました。自然体でいる方が自分にとっても相手にとっても良い、そう分かっていても難しそうですが。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。