本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『和算の侍』紹介

 こんにちは。

 皆さんは「数学」と聞くと、何を思い浮かべますか?多くの人が抽象的で難しいと考える一方、他にはない論理的な純粋さや美しさを感じる人もいたりと、結構好き嫌いが分かれる分野です。また、一般的には小説のような文学とは対極にあるイメージだと思います。ですが、数学を題材とした本というのも実は数多く書かれています。

 というわけで、8月のテーマは『数学』です。

 さて今回は、鳴海風さんの『和算の侍』を紹介します。和算に関わった実在の人物たちを主人公とした、短編歴史小説になります。

 

 

〇あらすじ

 建部賢弘は、関孝和に算術の師としての接し方について不満をぶつけるが相手にされなかった。複雑な計算を根性で行う賢弘に対し、孝和は全く新しい解法を求めようとしていたことに驚く。賢弘は闘志を燃やすが、同僚の間で孝和を陥れようとする動きがあることを知る。(『円周率を計算した男』)

 

〇数学と物語と

 鎖国中の江戸時代、和算と呼ばれる日本独自の数学が発展し、中には西洋に先んじていた部分もありました。本書では、あまり知られていない「和算の侍」たちにスポットが当てられています。

 『円周率を計算した男』では、関孝和の弟子である建部賢弘が円周率を正確に求めようと奮闘する話です。当時の円周率の求め方は、円に内接する多角形の辺の長さを求める方法で、多角形の辺を細かくしていくことで円周の長さに近づけていこうとするものでした。7万角形のような途方もない細かさにはどこか執念のようなものを感じます。しかしその方法では円周の近似値を求めることはできても、いつまで経っても円周率の真の値を知ることはできませんでした。孝和に冷たくそのことを指摘され、賢弘は衝撃を受けつつも反発します。その後、閃きを重視する感覚派の孝和に対し、賢弘は愚直なまでの努力によってついに円理にたどり着きます。算数の授業で何気なく習う3.14には、何人もの天才たちの執念が込められていました。

 賢弘が円理にたどり着くまでには、妻の春香の助けが不可欠でした。本書の他の短編に登場する算術家たちも、妻や恋人に支えてもらいながら和算の研究に打ち込みました。男尊女卑の江戸時代という時代背景もありますが、孤独を感じることが多い数学の研究には、共に支え合っていく誰かが必要なのかもしれませんね。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。