こんにちは。
「秋と言えば」シリーズ、最後はもちろん読書の秋。10月27日~11月9日は「読書週間」でもあります。本を読むのにぴったりの秋の夜長には、せっかくなら「本についての本」を読むのはいかがでしょうか。
というわけで、11月のテーマは『読書』です。
膨大な量の本があるにもかかわらず、読む人のなんと少ないことか!
ヴォルテール(フランスの哲学者/1694-1778)
さて、今回は深緑野分さんの『この本を盗む者は』を紹介します。
〇あらすじ
膨大な蔵書量を誇るが一族以外の者は入れない御倉館には、盗難防止の魔術が掛けられていると噂されていた。深冬は本が嫌いだったが、真白という少女から「繁茂村の兄弟」という本を読むように促される。すると、現実がファンタジーの世界に侵食されていた。
この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる。
〇感想
御倉嘉市という書物の蒐集家が建てた御倉館は、当初は私設図書館のように一般にも開放されていました。跡を継いだ娘のたまきは相次ぐ蔵書の盗難に怒り、御倉館を閉鎖します。さらには御倉館から本が盗まれたときに発動する魔術も用意されており、そのために本作の騒動が巻き起こります。深冬はファンタジーの世界、ハードボイルドな世界、蒸気機関が発達した世界と、様々な世界観に巻き込まれていきます。連作短編のように1話につき1冊の本が盗まれるのですが、話が進むにつれてだんだんと御倉館に掛けられた呪いの謎が明かされていく形になっています。
昨日の『はてしない物語』は本の中に取り込まれていく話でしたが、本作では逆に現実の方が本の世界に侵食されてしまいます。本の世界に入っていくのはなんとなく楽しそうな気がしますが、現実が変わってしまうのはなかなか大変そうです。現実の世界や現実の自分自身があってこそ虚構や物語の世界が楽しめるものだと思うので、現実そのものが変わってしまうと不安の方が大きいのではないでしょうか。例えば大きな災害が起きて日常が非日常になってしまったときなどは、精神的に不安になって鬱になりやすいと言います。失ってから初めて分かるのが、日常のありがたさなのかもしれませんね。
ここまで読んでくださってありがとうございました。