本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『聖の青春』感想

 こんにちは。

 先日、藤井聡太竜王がストレートで王将を奪取し、最年少5冠王となり話題となっております。順位戦でもA級への昇格が期待されていますね。

 ふと将棋について読みたくなり、ノンフィクション小説『聖の青春』(大崎善生著)を読みました。

 主人公の村山聖棋士は難病と闘いながらも、棋士としても羽生世代のライバルたちと闘い、A級棋士にまで上り詰めますが、29歳の若さでこの世を去ります。この本には彼の激動の人生が詰まっています。文中や巻末には棋譜も載っていますが、基本的に小説調なので将棋が分からない人にも読みやすいです。ちなみに、聖は「ひじり」ではなく、「さとし」と読みます。

 松山ケンイチ主演で映画化もされ、話題になりました。

 

〇あらすじ

 昭和44年に広島に生まれた村山聖は、幼いころに腎臓の難病であるネフローゼ症候群を発症し、入退院を繰り返す日々を送っていた。ある日父と指した将棋に興味を持った聖は、漢字も読めないうちから将棋の本を読んで独学で勉強する。ままならない病気に苦しんでいた聖は将棋に救われることになる。やがて再発した病気に苦しみながらもプロ入りを達成し、文字通り命を削るような死闘を繰り広げながら羽生世代の中でも頭角を現していく。

 

〇ここからが面白い!

 幼少期のエピソードは病気に対する苦しみや絶望を感じるシーンが多いです。難病の子供を集めた病院のシーンなんかは読んでいるだけで辛くなります。ですが、少し読み進めると絶望の中に希望が見えてきて、そこからが面白くなってきます。

 一つ目は、将棋と出会い、活力を取り戻していく部分です。

 聖は将棋に触れることで生きる気力を取り戻していきます。病気で身体を動かせない聖は将棋の世界では自由に駒を動かし、健康な相手に対等以上に渡り合うことができました。

 世間的には単純に勝ち続ける方が評価されやすいですが、聖にとっては将棋こそが人生で唯一どうにもならない現実に抗う手段だったのです。もちろん羽生九段にも藤井竜王にもそれぞれの戦う理由があるのだと思いますが。

 二つ目は、師匠をはじめとした周りの人々と関わり合っていく部分です。

 師匠である森信雄棋士との出会いも聖に大きな影響を与えます。二人の共同生活の部分は二人とも楽しそうで、読者としてもようやく安心できるところです。周りの目を気にしないよく似た師弟の共同生活は、飾らない感じがして読んでいて面白かったです。聖は森から将棋や生き方を学び、森も聖の純粋さに影響を受けるなど、二人がお互いに影響を与え合うのも気持ちが通じ合っている感じがしました。

 聖が後輩の棋士を可愛がっていたエピソードもあり、本当に慕われていたのだと思います。病気であるがゆえに純粋さを持ち続け、それは棋力の向上だけでなく、周りの人間を引き付ける魅力にもなっていたのでした。

 難病患者のノンフィクションと言えば辛いシーンばかりで重い気分になると思ってしまいがちですが、『聖の青春』は何度打ちのめされても常に一生懸命な聖に共感することも多かったです。タイトルに青春とあるのがうまいなと思いました。小説風なのでよみやすいところもよかったです。

 どうにもならない現実に苦しんでいる人にはおすすめです。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。