本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『革命前夜』紹介

 こんにちは。

 みなさんは、秋と言えば何を思い浮かべますか?読書の秋ももちろんいいですが、秋と言えば芸術の秋ですね。たまには優雅なピアノの演奏に耳を傾けたくなります。

 というわけで、9月のテーマは『ピアノ』になります。

 グランドピアノの蓋を開けるとたくさんの弦が張ってあります。モーツァルトベートーヴェンの時代のピアノの弦は鉄や真鍮で作られていてか細い音しか出せませんでした。今は鋼鉄製の弦が用いられており、1本に80キロもの力が掛かっているそうです。ピアノ用に開発された弦は映画の撮影用のワイヤーなどとしても活躍しています。

 さて今回は、須賀しのぶさんの『革命前夜』を紹介します。ベルリンの壁崩壊直前の東ドイツに留学したピアニストを描いた作品です。

 

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♪ あらすじ

 昭和が終わったことを、眞山は留学先の東ドイツで知った。バブルに浮かれる日本から逃れ、DDRの廃墟のような静かさを求めてきた眞山だったが、天才バイオリニストのヴェンツェルに振り回されて自分のピアノを見失いかけてしまう。そんな彼を救ったのは、宮廷教会で出会ったオルガンの銀の音だった。

 

♪ 本の間奏

 本作はピアノ小説であると同時に、冷戦末期の東ドイツを描いた歴史小説にもなっています。同じ敗戦国でありながら、西側の一員として繁栄を享受してきた日本とは違い、東ドイツは復興がなかなか進まず、質の悪い褐炭で建物は廃墟のように黒ずんでいました。1989年の時点で電話が全家庭に引かれておらず、街中に瓦礫が残されているというのは日本では考えられないことです。さらには互いを監視し合い、家族であっても密告するのは、読んでいるだけで息が詰まりそうでした。いかに日本が恵まれているのかが分かります。想像力を掻き立てるようなピアノの表現も良かったですが、まさに革命前夜のようなこの時期の東側の張りつめた雰囲気が詳しく描写されていました。

 そんなDDRドイツ民主共和国)が唯一誇れるものが音楽でした。言葉の要らない音楽は、感情や人間性をそのまま伝えてしまいます。そこから繰り広げられる人間ドラマもとても面白かったです。眞山自身は家族に反発する形でDDRにやって来ました。ですが、DDRのピアニストたちや他の留学生たちはそれぞれに重い事情や決意を持っていました。日本は経済的には豊かですが、厳しい環境でなければハングリー精神は生まれにくいのも事実です。一方で貧しい東側の人たちは豊かな西側に憧れており、東側では誰が密告者になるのか分からず気が抜けません。カルチャーショックとホームシックで自信を失ってしまう主人公を救ってくれたのもやはり音楽でした。時代や国境や政治体制の違いをも超えてしまうのが音楽の偉大さですね。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。