シビアな勝負の世界に生きる人たちを描く『トライアル』紹介
こんにちは。
今年5月29日には日本競馬界でも最も特別なレース・日本ダービーが開催されます。今月はそれにちなみ、『馬』まつわる本を読んでいきたいと思います。
1991年の第58回日本ダービーでクラシック2冠目を手にしたのは、無敗三冠馬シンボリルドルフの産駒トウカイテイオーでした。しかし、このレースで骨折が発覚。三冠の夢は絶たれました。以降も怪我に泣かされることになりますが、そのたびに復活し勝利を飾ります。1年ぶりのレースとなった有馬記念では奇跡的な勝利を飾り、4度目の怪我により引退しました。その不屈の復活劇から奇跡の名馬とも呼ばれます。
さて、今回紹介するのは、真保裕一さんの『トライアル』です。競輪、競艇、オートレース、競馬といった勝負の世界に身を置く人々を主人公にしたミステリーとなります。
ミステリー作品なのでネタバレには注意して書いていきます。
〇あらすじ
競輪場で練習に励む直人のもとに7年ぶりに晴彦が姿を現す。借金のために八百長をさせに来た兄に直人は動揺を隠せなかった。(『逆風』)
競艇選手の映子はともに競艇をやっている夫の一隆のバッグから一枚の金属片を見つける。さらには事故により休業中の夫が戸田レース場に姿を見せていることを知る。(『午後の引き波』)
オートレースの試合前に雨を待っていた明博のもとに、父の容態が急変したとの電話が入る。しかし電話は悪質ないたずらであることが判明する。(『最終確定』)
新人騎手の高志は、ケガ明けのセキノウイングが自分から喜んで駆けだしたことに驚く。担当した厩務員は過去を語ろうとしない塩田という男だった。(『流れ星の夢』)
〇この馬がすごい!
本作のメインは馬というよりも、シビアな勝負の世界に生きている人達になります。プロの世界ではちょっとした精神的なダメージでさえ勝負に影響を及ぼします。彼らはそれぞれに伸び悩みを抱えており、そこに付け入るように八百長や不正といった事件に巻き込まれていくことになります。勝ちたいという気持ちがあるからこそスランプに陥ったときにより苦しんでしまう、そんなもどかしい気持ちを抱えつつも、戦っていかなければなりません。
中でも、競走馬に関わる厩務員や新人騎手を描く『流れ星の夢』が特に面白かったです。腕のいい厩務員である塩田は素性を隠しており、その正体は最後まで明確には語られません。登場人物たちの背景や塩田の描写を見ているとなんとなく答えは見えてくるのですが、個人的にこういうほのめかすような終わり方はいろいろ考える余韻があってすごく好きです。
ちなみにタイトルの「流れ星」とは、「流星」と呼ばれる馬の額にある白い模様から取られています。セキノウイングには額に流星があり、厩舎全員の「願い」を背負って走っていく、といった意味もあるのかなと思いました。
悩んだり苦しんだりするシーンが多いですが、最後にはスポーツ選手らしく困難に立ち向かっていきます。読後感も良いものが多かったです。
ここまで読んでくださってありがとうございました。