本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『世界の終わりの天文台』紹介

 こんにちは。

 早いもので今年ももう12月。2022年もまもなく終わろうとしていますね。みなさんにとって、今年はどんな年でしたか。

 7月には、第167回芥川賞に高瀬隼子さんの「おいしいごはんが食べられますように」、直木賞窪美澄さんの『夜に星を放つ』が選ばれました。毎度のことですが、いつか読んでみたいですね。

 今年も色々ありましたが、なるべくやり残したことのないように年の終わりを迎えたいですね。

 というわけで、今月は「世界の終わり」をテーマに本を読んでいきたいと思います。

 さて、今回はブルックスさんの『世界の終わりの天文台』を紹介します。

 

 

〇あらすじ

 北極圏の天文台にただ一人残ったオーガスティンは、しばらくして無口な少女が取り残されていることに気が付く。

 木星周辺の調査を行っていたサリーたち「アイテル」のメンバーは、地球との連絡が取れなくなったことに不安を抱いていた。

 

「ここにいるぞ」オーギーはいった。「KB1ZFI、受信を確認」

 

〇感想

 本作では、(噂によると)戦争により世界が終わります。北極圏の天文台からの撤収が始まりますが、オーガスティンはただ一人残ることを決めます。その後、アイリスという少女が取り残されてしまっていたことを発見します。初めは一人静かに死にたがっていた老天文学者でしたが、物静かな少女と暮らすうちに、彼女のためにも自分は死ねないと思うようになります。そして、研究ばかりで孤独だった自分の半生を振り返り、愛を求めていたことに気が付いていきます。そうした本作のテーマが、北極圏の静かで神秘的な世界観とよく合っていました。一方で、木星を周回していたサリーたちは、地球からの通信が途絶えてしまったことに気が付きます。普通なら宇宙飛行士の方が危険が多いイメージですが、今回は地球に残っている人々の方が危険だったというのが逆説的で面白いです。そんな状況下にあっても、サリーたちは切り替えて自分たちにできることを探そうとしているのが印象的でした。

 本作で特に印象に残ったのは、北極圏に住む動物たちでした。人間たちが右往左往する中で、オオカミやホッキョクグマは世界の終わりなど気にせずにいつも通りに暮らしています。たとえ核戦争が起ころうと、人類が滅びようと、宇宙や地球といった世界自体は存在し続けます。ただ、小説として描くなら人間の存在は必要なので、「世界の終わり」=「人類の終わり」となってしまうようです。「世界の終わり」で大騒ぎするのは、結局のところ人間だけとも言えますね。個人的には他にも、ロッカーに何枚も写真を貼り付けているシーンが印象に残りました。洋画などでよく見るアレですが、世界が終わってしまった状況で見ると切ない雰囲気が増している気がします。写メばかりになってしまった現代日本との違いも感じられていいシーンでした。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。