本をめぐる冒険

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『青の数学』紹介

 こんにちは。

 皆さんは「数学」と聞くと、何を思い浮かべますか?多くの人が抽象的で難しいと考える一方、他にはない論理的な純粋さや美しさを感じる人もいたりと、結構好き嫌いが分かれる分野です。また、一般的には小説のような文学とは対極にあるイメージだと思います。ですが、数学を題材とした本というのも実は数多く書かれています。

 というわけで、8月のテーマは『数学』です。

 さて今回は、王城夕紀さんの『青の数学』を紹介します。数学に青春を捧げる高校生たちが登場する数学青春小説です。

 

 

〇あらすじ

 栢山は数学オリンピックの予選に向かう途中で彼女と出会った。何のために数学をやるのかと問われ、約束と答える栢山に対し、彼女はただの暇つぶしだと言う。

 高校生になった栢山は、本格的に数学を教わることになる。ネット上では数学による決闘が繰り広げられており、栢山もその中で成長していく。

 

〇数学と物語と

 「数学で決闘」というと作り話みたいですが、作中でも紹介されている通り、中世ヨーロッパでは数学による戦いが本当に行われていました。それは方程式を出し合って、解けなかった方が負けるというものでした。16世紀の数学者・タルタリアは3次方程式の解の公式を発見しましたが、こっそり教えてもらったカルダノが自分の名前で勝手に公表してしまったというエピソードが有名ですね(3次方程式の解の公式は現在「カルダノの公式」と呼ばれています)。日本の和算にも遺題と呼ばれる習慣があり、競い合うことで数学を発展させていく効果はあるようです。

 本作でもそんな真剣勝負に青春を捧げる若者たちが活躍します。ネット空間では決闘が行われており、数学好きの学生たちが日夜勝負を繰り広げています。もちろん命や金を賭けるわけではなく、名誉や名声のために真剣に戦います。展開がスピーディーなので次々読みたくなりますが、作中で登場する数学の問題を自分で解いてみたい気もするのが悩ましいところです。

 本作では、数学は何のためにやるのかが繰り返し問われます。「結局、数学って何の役に立つの?」は、現実でもよく聞く質問ですね。社会の見えない部分で使われていると答える人もいれば、物理学を先取りしていると考える人もいます。あるいは解けたときに気持ちいいから、ただ美しさに魅せられてという人もいます。おそらくただ一つの正解はないのではないでしょうか。それまでの数学との関わり方によって、数学がその人にとってどういうものか違って見えます。本作では「それぞれの数学世界を持っている」と表現されています。数学がどういうものかは、その人の定める定義によって決まるものだということです。公理を重視する数学なのに、数学自体の定義は人によって違うというのは少し不思議ですね。珍しいと思ったのは、すべてに納得できないと数学ができないと言う柴崎や、数学が好きだけど才能がないと嘆く七加といった、数学が苦手な人間もちゃんと登場するところです。数学が苦手な人間でも自分なりの数学世界を持っていることで、テーマに一貫性が出ていた気がします。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。