『サクラ咲く』紹介
こんにちは。
4月のテーマは『桜』です。新入生は新しい学校にまだ馴染めていないころでしょうか。受験のときに合格を表す言葉として「サクラサク」という言い回しがよく用いられます。その由来は、今とは違って電報で結果を伝えていた時代、早稲田大学で「サクラサク」という言葉が使われたからと言われています。短い言葉で合格の喜びを十分に伝える言い回しで、全国に広まったというのも納得です。古くから日本人を魅了してきた桜は、数多くの小説にも登場してきました。
今回紹介する本は、辻村深月さんの『サクラ咲く』です。
〇どんな本?
SF要素のある『約束の場所、約束の時間』、表題作の『サクラ咲く』、突然演劇部を引退した先輩と、彼女を主役に映画を撮りたい高校生たちの物語『世界で一番美しい宝石』の3作品を収めた短編集です。
作者の辻村深月さんは『鍵のない夢を見る』で直木賞を受賞されており、本作『サクラ咲く』は同じ2012年に出版されました。「約束の場所~」と「サクラ咲く」は進研ゼミに連載されたもので、「世界で一番~」は『小説宝石』で連載されたものになります。
〇あらすじ
自分の意見をみんなの前で主張できないマチは、推薦されるがままに書記に任命される。学級委員長でしっかり者のみなみや、同じ科学部で科学者になる夢を持つ奏人たちと仲良くなっていく。ある日、いつものように図書館にいくと、本の間に「サクラチル」と書かれた紙を発見する。その文字に寂しさを感じたマチは、名前も知らない誰かと本を通してやり取りをすることを決心する。
〇この『桜』がすごい!
本作は入学直後からの1年間を通した物語となっています。そのためタイトルの「サクラ」は桜の木ではなく、合格を表す「サクラサク」から来ています。
「サクラチル」という紙を書いたのは誰か?というミステリーっぽい要素もあり、非常に爽やかですらすら読める青春小説になっています。進研ゼミに連載されたということで中学生が読むことを念頭に置かれたことがよく分かります。なんとなく進研ゼミのあのマンガを思い出します。
自分に自信がないという悩みは誰にでも共感できそうですし、マチが友達を通して成長していく姿はすごく気持ちがいい展開でした。登場人物もみんな人間がよく出来ていてとても優しくしてくれます。
自由研究や合唱といったよくある行事も、子供たちにとっては一つ一つが大切なイベントになりますね。大人になってから読むと懐かしくも眩しく感じます。
ですが、誤解を恐れずに言うなら、キレイすぎて辻村深月さんらしくはなかったかな?と思いました。辻村さんといえば、読者の心をえぐるような言葉や展開が印象に残ると(個人的には)思います。もちろん進研ゼミで連載する以上、読み手は中学生なので当然ですが。もしも私が中学生だったらまた違った感想になるのでしょうか。
青春小説には若い頃にしか感じられない何かがあるのかもしれません。
個人的には『世界で一番美しい宝石』の方に辻村さんっぽいテイストを感じました。特にヒロインの本音が醜く吐き出されるシーンには読者もかなり揺さぶられます。青春小説らしく後先考えない若さや爽やかさも感じられ、読後感も良かったです。また、図書館が舞台なのも好きな要素ですね。
辻村さんの作家としての幅の広さを感じました。あとは悲しいことですが自分が大人になってしまったと再確認しました。
ここまで読んでくださってありがとうございました。