本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『羊と鋼の森』紹介

 こんにちは。

 みなさんは、秋と言えば何を思い浮かべますか?読書の秋ももちろんいいですが、秋と言えば芸術の秋ですね。たまには優雅なピアノの演奏に耳を傾けたくなります。

 ピアノにはグランドピアノとアップライトピアノがあり、前者は弦が水平、後者は垂直になっています。ピアノと言えばグランドピアノを思い浮かべますが、グランドピアノに比べて場所を取らないのがアップライトピアノの長所となっています。

 というわけで、9月のテーマは『ピアノ』になります。

 さて今回は、宮下奈都さんの『羊と鋼の森』を紹介します。

 

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♪ あらすじ

 17歳の外村は、たまたま見ることになったピアノの調律に森の匂いを感じた。調律師を目指すことにした外村は厳しい学校を卒業して、憧れの調律師・板島が務める会社で働き始める。音楽の知識などなかった外村だが、先輩の柳のもとでこつこつと調律について学んでいく。ある日、ふたご姉妹のピアノの調律に立ち会い、妹の明るい音よりも姉の静かな音に心惹かれる。

 

♪ 本の間奏

 初めは高校生だった外村がとある偶然からピアノの調律に興味を持ち、調律師として成長していきます。文章が洗練されており、読んでいて楽しかったです。ピアノから森の匂いがした、羊毛のハンマーで鋼の弦を叩くといった感じでタイトルにも美しさが込められています。ピアノのことを「世界に溶けている美しいものを掬い上げる」と表現しているのが特に印象に残りました。

 調律師はただ音階通りの音にすればいいわけではありません。弾き手の要望やピアノの置かれている環境に合わせたり、ピアノの持っている本来の音を引き出したりすることが求められます。ただ弾き手の力量によってはピアノの音に負けてしまうこともあるなど、一筋縄ではいきません。主人公が悩みながら成長していく姿に共感できる社会人の方も多いのではないでしょうか。

 作中、憧れの調律師である板島は、理想の調律を原民喜の残した言葉に例えています。

 明るく静かに澄んで懐しい文体、少しは甘えてゐるやうでありながら、きびしく深いものを湛へてゐる文体、夢のやうに美しいが現実のやうにたしかな文体……私はこんな文体に憧れてゐる。

 原民喜は広島で原爆を経験した作家だそうで、この文章は「沙漠の花」という随筆から引用されています。世界から美しいものを取り出すこと。それはピアノの調律も文章を書くことも同じなのかもしれません。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。