本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『太宰治の辞書』紹介

 こんにちは。

 「秋と言えば」シリーズ、最後はもちろん読書の秋。10月27日~11月9日は「読書週間」でもあります。本を読むのにぴったりの秋の夜長には、せっかくなら「本についての本」を読むのはいかがでしょうか。

 というわけで、11月のテーマは『読書』です。

読書ほど安い娯楽も、長続きする喜びもない。

メアリー・ウォートリー・モンタギュー(イギリスの著述家/1689-1762)

 さて、今回は北村薫さんの『太宰治の辞書』を紹介します。

 

 

〇あらすじ

 偶然見つけたピエール・ロチの『日本印象記』から始まり、芥川龍之介三島由紀夫太宰治と続いていく私の文学の旅。真打となった円紫さんの助言を受け、太宰治の辞書を求める旅へ。

 

 「自分の好きだった本が、友達のうちに置いてあるのも、悪いことじゃない。」

 

〇感想

 本作は、17年ぶりに書かれた《円紫さんと私》シリーズになります。《円紫さんと私》シリーズは、私ももともと好きな日常ミステリでした。「私」が女子大生だった第1作『空飛ぶ馬』はあまりの文章レベルの高さから、北村さんが当時覆面作家だったこともあって、本当に女子大生が書いていると思われていたという逸話があるほどです。奇しくも、本作で登場する太宰治の『女生徒』のエピソード(太宰は女学生から送られてきた日記をもとに『女生徒』を書いたそうです。)と被るところがあるのが面白いです。

 本作では、出版社で働きながら子を持つ母となった「私」が、小説の中で見つけたふとした疑問から文学の旅に出ます。正ちゃんや円紫さんといった懐かしい面々との再会を挟みながら、タイトルにもなっている太宰治の辞書を求めていきます。芥川、三島、太宰といった文豪たちの残した文章を繋いで辿っていくところは普通のミステリーにはない面白さがあります。ちょっとした疑問からここまで調べ上げてしまうのがすごいですし、翻って自分の読みの浅さを感じることにもなりました。普通に読書をしているだけでは、一冊の本をここまで深く考えることまずありません。日常ミステリーでありながら、めったにない経験を味わえるのが本作の面白さと言えそうです。

 昔の作家は今の作家とは違い、著者の生き方そのものが作品と密接に関わってきます。後年になってこれだけ深く読まれるというのは、太宰本人が知ったらどう思うのでしょうか。作家の中には、生前はそこまで名前が売れなかった人も多かったと思います。隠していたプライベートまで暴かれてしまうのは流石に嫌かもしれませんが。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。