本をめぐる冒険

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『ぼくの弱虫をなおすには』紹介

 こんにちは。

 もうすぐ待ちに待った夏休み!夏休みと言えば、宿題の定番である読書感想文

 とは言え、あらためてまとまった文章を書くのはなかなか大変ですよね。ついつい後回しにして、最後に泣く泣くやることになるのはよく聞く話です。元学生の方には、今となっては懐かしい思い出かもしれませんね。

 というわけで、今月は今年(2022年)の課題図書に指定されている作品を読んでいきます。今回はK・L・ゴーイングさんの『ぼくの弱虫をなおすには』を紹介します。小学校高学年向けとなります。

 

 

 

〇あらすじ

 こわがりなぼくは5年生になるのが何よりもイヤだった。西校舎には6年生のいじめっこがいるからだ。フリータはぼくのただひとりの親友。ちょっと強引なかのじょの提案により、夏休みをかけて「こわいものリスト」をひとつずつつぶしていくことに。

 

〇私なりの感想文

 こわがりな「ぼく」ことゲイブリエルは、こわいものなんてなさそうなフリータに引っ張られる形でこわいものを克服していくことになります。クモを飼ってみたり、フリータの家の地下室に行ってみたりと、ワイワイ騒ぎながら楽しそうな夏休みを送っていきます。

 しかし、実は夏休み直前にとてつもなく大きな問題が発生していました。修了式の日、ぼくをいじめたデュークの顔面をフリータが思いっきり殴りつけました。そこにやって来たデュークの父親の「ニガ―」という言葉に、フリータは見たこともない表情になり、周囲の空気も凍り付きました。フリータの肌はチョコチップクッキーのような色をしていました。フリータは黒人で、「ニガ―」とは黒人を差別する言葉だったのです。

 人種差別という問題は、現代のアメリカにあっても相当に根深いものです。今でも白人警官が黒人を必要以上に暴行する事件が何度もニュースになります。最近でも大規模な抗議活動が話題になりました。これはかつて白人が黒人を奴隷として使ってきたことに端を発しており、19世紀から積み重ねられてきた長い差別と偏見の歴史があります。リンカーン奴隷解放宣言によって黒人は奴隷という立場からは解放されていましたが、特に南部を中心に黒人に対する差別は続いていました。例えばバスの座席は黒人と白人で区切られていて、黒人は白人のために席を空けなければなりませんでした。そうした黒人差別に対してキング牧師らが立ち上がり、1960年ごろに公民権運動は大きな動きとなります。その結果、公民権法が成立し人種差別の撤廃が法的に定められました。しかし、キング牧師はのちに白人青年により暗殺されてしまいます。いかに差別意識をなくすことが難しいかが分かります。

 日本ではあまり実感しないかもしれませんが、目に見えにくい形で差別は存在しています。最近は「黒人」という言葉をやめて「アフリカ系アメリカ人」に、クレヨンの「肌色」は「うすだいだい」に、といった言い換えが行われています。言葉を変えただけと思うかもしれませんが、逆に言えば無意識のうちに差別的な考え方が刷り込まれているとも言えます。環境や教育でいつの間にか刷り込まれていることが差別の根深さでもあります。それらを完全になくすことは難しいですが、なくそうと努力することでよりよい世界になっていけばいいと思います。

 そう考えると、フリータと親友であるゲイブリエルは、ある意味で大人でもできないことをすでにやっていることになります。クモや暗闇を怖がるゲイブリエルは、白人が怖がる黒人であるフリータと、全く恐れることなく遊んでいます。終盤、お父さんから恐怖を感じることは仕方がないんだと諭されるシーンがあります。人間は誰でも恐怖を感じるものですが、ゲイブリエルたちのように一つずつ克服していくことはできます。そうやって地道にリストをつぶしていくことは、人種差別に対する克服にもつながっている。そしてそれは子供にだってできること。そんなメッセージを感じました。

 「ぼくら」の弱虫をなおすにはどうしたらいいのか。ゲイブリエルがクモと友達になれたように、まずは自分と向き合うことが大切なのかもしれません。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。