本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『セカイを科学せよ!』紹介

 こんにちは。

 もうすぐ待ちに待った夏休み!夏休みと言えば、宿題の定番である読書感想文

 とは言え、あらためてまとまった文章を書くのはなかなか大変ですよね。ついつい後回しにして、最後に泣く泣くやることになるのはよく聞く話です。元学生の方には、今となっては懐かしい思い出かもしれませんね。

 というわけで、今月は今年(2022年)の課題図書に指定されている作品を読んでいきます。今回は安田夏菜さんの『セカイを科学せよ!』を紹介します。中学生向けの一作となります。

 

 

〇あらすじ

 ロシア系ハーフのミハイルはとにかく目立ちたくなかった。しかしダラダラと活動していた科学部電脳班の部長代理に任命されてしまう。ある日、アフリカ系ハーフの山口アビゲイル葉奈が転校してきた。「蟲」好きを堂々と宣言し、カミキリムシのキーホルダーを付けてくる彼女に、クラスメイトたちは絶叫する。彼女は科学部生物班として活動することになるが、すぐに問題が発生してしまう。

 

〇私なりの感想文

 先日ご紹介した『ぼくの弱虫をなおすには』と同じく、人種問題を扱っている本作。これまで日本では話題になりにくかった人種差別ですが、近年はグローバル化の流れもあって注目されるようになった印象があります。引っ込み思案な白人系の男の子と積極的なアフリカ系の女の子という組み合わせが一緒なのが面白いですね。女の子が虫が好きなことも同じです。

 違っているのは、物語の舞台が日本であるという点です。白人系もアフリカ系も日本においては目立ちます。あからさまにいじめるわけでもないがよそ者扱いするクラスメイトや、規則を盾に責任を取りたがらない教師など、いかにも「日本人らしさ」が出ているのはちょっと皮肉にも見えます。グローバル化が進んでいる現在では、日本においてもこういった事例も多いのかもしれません。周囲から注目されないように目立たないように生きてきたミハイルと、周囲の目を恐れず自己主張していく山口さん。対照的な2人ですが、どちらも日本にも海外にも受け入れられなかった過去がありました。

 作中の「自分だけ色も形も違うから、生き物の分類に興味を持った」という山口さんの言葉に、一瞬虚を突かれる思いがしました。いつも強気に見える彼女も、実は自分と同じ悩みを持っていたことが分かり、ミハイルは驚きつつも共感していきます。飼育していたボウフラが逃げてしまい、殺処分される事件が起きますが、のちに事故だったことが判明します。最後まで明らかないじめっ子がいた『ぼくの弱虫をなおすには』とは違って、本作では「実は誰も悪い人間なんていなかった」というストーリー展開になっています。このあたりにもなんとなく欧米と日本の考え方の違いを感じますね。そこまで明確に敵味方を分けないのは、ある意味で「日本人らしい」解決策に思えました。

 日本では人種差別と言えば遠い国の出来事というイメージがある人が多く、特に初対面だと海外の人に対して身構えてしまう印象があります。アメリカにおける黒人差別のようにあからさまではないものの、「よそもの」に対する遠慮みたいなものも日本人らしさな気がします。東京五輪の招致の際に「おもてなし」という言葉が流行りましたが、あくまで「お客様」として接する分にはよくても、自分たちのテリトリーに入って来られると拒否反応を起こしてしまう。ですが、相手のことをよく知って一度仲良くなってしまえば人種なんて問題ではなくなるという話もよく聞きます。それが本作のタイトルにもなっている「科学する」ということで、対象の本質を追及し、相手を知っていくことなのだと思いました。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。