本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『少年と犬』感想

 こんにちは。

 馳星周さんの『少年と犬』を読みました。

 この作品は「人間と犬」をテーマにした6つの作品による短編集です。2020年の直木賞受賞作となっています。

 6つの作品はいわゆる連作短編で、全体で一つの物語となっています。展開が早くそれぞれにオチがちゃんとあるので、すらすら読むことができました。

 ありそうでなかった物語で不思議な読後感でした。

 なるべくネタバレなしで感想を書いていきたいと思います。

〇あらすじ

 東日本大震災で被災し、家族とともに熊本へと引っ越した内村は、ある日山道で傷ついた犬を拾う。その犬に埋め込まれたマイクロチップから、彼が『多門』という名前であること、飼い主は内村一家がかつて住んでいた岩手の女性で、すでに震災の時に亡くなっていたことを知る。多門を引き取り家に連れて帰ると、震災以来言葉を失った息子の光は4年ぶりに笑顔を見せるのだった。(「少年と犬」より)

 

〇感想

 6つの短編にはそれぞれの主人公がいます。真面目に働きたいと思いつつ運び屋をやる男、生きるために窃盗を働く外国人、相手に不満を持ちつつもすれ違う夫婦、ギャンブラーの彼のためにデートクラブで働く女、妻を病気で失い自分も癌に侵される老猟師、そして震災のショックで言葉を失ってしまった少年。それぞれが悩みを抱え、孤独を感じています。

 そこに一匹の犬がやってきて、つかの間の間ですが一緒に暮らすようになります。当たり前ですが、犬は人間の言葉なんて理解できないし、なにかしてくれるわけではありません。ですが、主人公たちは勝手に犬に語り掛け、不思議なことにたったそれだけで心が軽くなったように感じています。

 人間、誰にでも悩みはあります。それは重い悩みであればあるほど、他人には言えないことだと思います。ですが言葉が分からない犬だからこそ、そしてこちらに真っすぐに愛情を向けてくれる犬だからこそ、心のうちを打ち明けられるのではないでしょうか。

 シンプルなストーリーでしたが、だからこそ犬との交流が際立つ作品でした。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。