本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『此の世の果ての殺人』紹介

 こんにちは。

 早いもので今年ももう12月。2022年もまもなく終わろうとしていますね。みなさんにとって、今年はどんな年でしたか。

 10月には、今年のノーベル文学賞が発表され、フランスのアニー・エルノーさんが受賞しました。自身の経験を赤裸々に綴った私小説寄りの作品が多いようで、いつか挑戦してみたいですね。

 今年も色々ありましたが、なるべくやり残したことのないように年の終わりを迎えたいですね。

 というわけで、今月は「世界の終わり」をテーマに本を読んでいきたいと思います。

 さて、今回は荒木あかねさんの『此の世の果ての殺人』を紹介します。第55回江戸川乱歩賞を受賞した作品で、私にしては珍しく今年発売された新作です。もちろん、ネタバレに注意して書いていきたいと思います。

 

 

〇あらすじ

 小惑星の落下によりまもなく世界が終ろうとしている中、小春は自動車学校でイサガワ先生から教習を受けていた。高速教習を始めようとした矢先、教習車のトランクから女性の死体を発見する。驚く小春をよそに、イサガワ先生は冷静に死体を観察し、殺人事件だから捜査しようと言い出した。

 

星の観察を邪魔する夜の明かりを光害と呼ぶ。不幸な水曜日以降街から人が消え、電気が止まって、初めて夜空は光害から完全に解放された。

 

〇感想

 本作では、小惑星により世界が終わります。小惑星「テロス」の衝突、しかも落下地点は熊本県阿蘇郡。絶望した人々は自殺に走るか、あるいは国外脱出を図ろうとします。まさに「この世の果て」のような混乱の中で、わざわざ自動車学校に通い出す小春も、淡々と殺人事件の捜査を始めるイサガワも、かなりの変人と言えます。まあミステリーで変人探偵と言えば、シャーロック・ホームズの頃からのお約束なのですが。それでいていい意味でミステリーらしからぬ展開も待ち受けているので、読み物としても意外性があって引き込まれました。小春が自動車教習を受け始めた理由も伏線になっており、「世界の終わり」という設定がきちんとストーリーに生かされているのがすごく良かったです。

 個人的には、世界の終わりとミステリーの相性が良かった点が意外でした。現代でミステリーと言えば、「警察が介入しないのか?」や「携帯やネットを使わないのか?」が疑問になることが多いです。そのため、外界から遮断された孤島や雪山が舞台とされることが多く、それらはクローズドサークルものと呼ばれます。ところが、本作では「世界の終わり」という設定そのものが、自然な形で(?)その問題をクリアしてしまっています。警察もネットも機能していない状況では、必然的に素人探偵の出番となります。奇抜な設定なのに、いつのまにか名探偵が必要とされる条件が整っているのが面白いですね。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。