本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『ボックス!』紹介

 こんにちは。

 突然ですが、秋と言えばスポーツの秋!気持ちのいい秋空に過ごしやすい気温、身体を動かすにはもってこいの季節になりました。

 と言うわけで、10月のテーマは『スポーツ』です。

 全国高等学校体育連盟によると、令和4年のボクシング部の部員数は男子のみで1950人でした。高校生全体では約300万人なのでおよそ0.06%、だいたい1500人に1人がボクシング部に所属していることになります。テレビでは頻繁にタイトルマッチが放送されている気がしますが、部活としてやっているところは少ないようです。

 さて、今回は百田尚樹さんの『ボックス!』を紹介します。お調子者の天才と、真面目な努力家。何から何まで正反対な二人がボクシングに打ち込んでいきます。

 

 

〇あらすじ!

 耀子が不良グループに絡まれていると、少年が風のようにやってきて全員打ちのめしてしまう。教え子の優紀から、それは彼の幼馴染の鏑矢であると教えられる。お礼を言いに行くと、鏑矢は鼻からうどんを出してみんなを笑わせているところだった。あまりの姿に耀子は失望するが、体の弱い優紀は強い鏑矢に憧れており、あるきっかけから自分もボクシングをやりたいと思うようになる。

 

〇感想!

 ボクシングセンスは抜群だが、同時に抜群に頭が悪い鏑矢。幼いころからぜんそく持ちだが、特待生になるくらい勉強ができる優紀。経験者対初心者、天才対努力家、お調子者対真面目、問題児対優等生。徹底的なまでに正反対の二人は幼なじみで親友であり、いずれはボクシングのライバルになっていきます。鏑矢はボクシングの才能は圧倒的ですが、異常とも思えるくらいに奇矯な言動の方が目立ちます。他人の心が分からないし分かろうともせず、天才であるがゆえの傲慢さが過剰なくらいに描かれていました。小説のための創作なのか、ボクシング界には本当にそういう天才がいるのかは分かりませんが、実際のプロ選手による試合前の煽り合いを見ると後者もありえそうです。それに対し、語り手でもある優紀は秀才ながら地道な練習にも真面目に取り組み、全くの初心者としてボクシングを教わっていくので、ボクシングを知らない読者も感情移入しやすい気がしました。ですが物語が進むにつれて、その構図が変化していくところが本作の読みどころだと思いました。作品全体からは腕力による男らしさを魅力の最上位に置く雰囲気があって、あえて時代の流れに囚われない感じも受けました。

 ボクシングについてかなり詳しく書かれているので、初めて知ることが多かったのも面白かったです。ボクシングと言えば、激しい殴り合いで出血や気絶といった危険が付きまとうイメージがありましたが、アマチュアの試合では安全面に関して様々なルールが整備されていることはあまり知りませんでした。また、優紀に対する沢木監督の指導も、丁寧に理屈を教えたうえで一つずつ必要な技術を身に付けていく感じで好感が持てました。ボクシングの練習は想像以上に地味で厳しいもので、軽い気持ちで初めても続かないのも分かりました。細かなルールがあって地道な努力が必要なボクシングは、ただの喧嘩ではなくれっきとしたスポーツだと思いました。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。