本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

美しくも残酷な『桜の森の満開の下』感想

 こんにちは。

 4月のテーマは『』です。お花見の起源は奈良時代ごろと言われており、当時は桜ではなく梅を観賞する行事だったそうです。桜を見るようになったのは遣唐使を廃止した平安時代からでした。古くから日本人を魅了してきた桜は、数多くの小説にも登場してきました。

 今回紹介する本は、坂口安吾の『桜の森の満開の下』です。正直かなり難解でした。

 

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〇どんな本?

 戦後を代表する作家とされる坂口安吾の代表作で、1947年に発表されました。

 説話風の語り口とかなり残酷な描写が特徴的です。

 

〇あらすじ

 誰もいない桜の下は恐ろしいものだ。鈴鹿峠に住み着く山賊の男は都にいた美しい女を8人目の女房にするが、逆にわがままな女に今までの女房を殺すように迫られる。都に引っ越した男は女の言うがままに生首を集めることになる。あるとき都に退屈を感じた男は山に帰ろうとする。桜の木の下を通りがかったとき、背負った女が鬼であると思って殺してしまう。

 

〇この『桜』がすごい!

 この作品に登場する桜は人を狂わせる魔性の存在として描かれます。

 今でこそ宴会をして桜を愛でるが、本当は恐ろしいものだ、と冒頭から語られます。そんな旅人が避けて通るようになる寂しげな桜の森が舞台となります。

 男は何千人も平然と殺すような人間ですが、そんな残虐な男ですら桜を恐れていました。決心して桜の木の下でじっと座っていようとするのですが、すぐに泣いて逃げ出してしまいます。

 なぜそれほどまでに桜が恐ろしいのでしょうか。

 最後の場面で男が恐れていたものが「孤独」であったことが語られます。男にとって他人とは奪うために殺す相手でしかなく、人が多い都にもなじめずに嫌っていました。女は唯一男に指図する特別な存在でした。男は最後に女を手にかけてしまい、桜も怖くなくなりました。

 緑の多い山の中で満開に咲く桜の様子は華やかでかなり目立ちます。だからこそそこに一人でいることで余計に孤独を感じるのかなと思いました。花びらがとめどなく散っていく様子は美しさを越えて無常さのようなものを感じます。無限に降り続くような花びらが、退屈を恐れる男にとっては恐ろしかったのかなと思いました。

 確かにふと冷静になったときに、いつまで人生が続くのか恐ろしく感じる瞬間ってありますよね。虚無に落ちるというか、憂鬱な気分になったときにたまにそう感じます。

 最後、男が消えていったのは、彼にとっては救いだったのかもしれませんね。

 一見説話風なのですが、深く読もうとすると難しいですね。

 ちなみに、本作の冒頭ではさらわれた子供を探していた母親が桜の林の中で狂っていくという能の話が出てくるのですが、これは能の「桜川」という演目のことのようです。桜が狂ったように散っていく様子は、昔から人の心を不安にする部分があったのかもしれません。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。