本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

信長をめぐる冒険 ~15人の織田信長の小説

 こんにちは。

 天正10年6月2日(新暦に直すと1582年6月21日)は、本能寺の変が起こった日です。織田信長は家臣である明智光秀の謀反により、天下統一を目の前にしてその生涯を閉じることとなりました。信長といえば、好きな歴史上の人物ランキングなどで1位に輝くことが多く、その人気は非常に高いです。どうしてそんなに人気があるのでしょうか。今月はそんな信長が登場する小説を読んでみました。

 今回驚いたのは、信長が登場する小説の数の多さでした。出版年数順に読んでいったのですが、近年の歴史ブームもあってむしろ最近の方が出版数が多かった印象です。あまりの多さに選ぶのも難しいくらいでした。それだけ織田信長という人物が、日本史上でも強い個性を持った魅力的な存在だったことの表れでしょうか。

 

 

 

『新書太閤記』紹介 - 本をめぐる冒険

 1作目から秀吉が主人公の太閤記ですがお許しを。物語は小牧長久手の戦いまでですが、かなりの超大作。吉川英治版の織田信長は、乱世の時代に日本全体を思考する英雄であり政治家でした。ボリューミーな全11巻。

 

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坂口版『織田信長』紹介 - 本をめぐる冒険

 坂口安吾版の織田信長は、自信家に見えて不安を抱え、人間が死ぬものと考えているからこそ常に命を懸けて行動しているという逆説的な人物でした。短編(未完成)。

 

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登場人物のキャラクター性が際立つ 山岡版『織田信長』紹介 - 本をめぐる冒険

 山岡荘八版の信長は常に人を食ったような感じで、少年期から青年期は少年マンガの主人公のような、壮年期からは恐ろしい怪物のような印象を受けました。濃姫との掛け合いがお気に入り。すらすら読める全5巻。

 

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『織田信長 炎の柱』紹介 - 本をめぐる冒険

 大佛次郎版の信長は、人間のおぞましさを嫌い、人間を終わらせるために自らが鬼となる、まさしく燃え盛る炎のような人物です。テーマがはっきりしているので集中して読みやすかったです。濃厚な全2巻。

 

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『国盗り物語』紹介 - 本をめぐる冒険

 司馬遼太郎版の信長は、斎藤道三を主役とした前半を受け、特に道三の弟子という文脈で捉えます。同じく道三からの薫陶を受けた光秀にも注目しています。バランスのいい全4巻。

 

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『覇者』紹介 - 本をめぐる冒険

 『逆説の日本史』の井沢元彦さんが、信長と信玄という二人の覇者の戦いを描きます。全体的に理屈付けがしっかりしている印象。ロマンスもある全3巻。

 

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『天魔信長』紹介 - 本をめぐる冒険

 若き信長が家督を継ぎ桶狭間で勝利するまでの物語。これから、というところで終わります。物足りない?全1巻。

 

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畑山版『織田信長』紹介 - 本をめぐる冒険

 畑山版の信長はまさかのシスコン疑惑!?謙信との対比にも着目しています。オリジナル要素も多い全1巻。

 

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『本能寺』紹介 - 本をめぐる冒険

  光秀との関係にクローズアップして、出会いから本能寺の変に至るまでを描きます。完璧な信頼関係で通じ合った信長と光秀がすごく新鮮です。仲が良すぎた全1巻。

 

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『火天の城』紹介 - 本をめぐる冒険

 安土城築城物語。信長に応え、これまでにない城を造ろうとする大工たちの命を懸けた戦い。まとまりのよい全1巻。

 

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『信長の棺』紹介 - 本をめぐる冒険

 信長の伝記作者を主人公として、本能寺の変の謎に挑む歴史ミステリー。密度の濃い全2巻。

 

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『織田信奈の野望』紹介 - 本をめぐる冒険

 たまにはラノベでも。まさかの美少女化!?まさかの全22巻+外伝。

 

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『蒼き信長』紹介 - 本をめぐる冒険

 家族を大切にする微笑ましい信長像は、現代にも通じるものがあります。全2巻。

 

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『信長嫌い』紹介 - 本をめぐる冒険

 信長に敗れていった者たちから見た短編集。普段は注目されない人々ばかりで新鮮でした。7話構成の全1巻。

 

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『信長の原理』紹介 - 本をめぐる冒険

 歴史上の戦国武将たちに、現代の社会学的な法則を当てはめる意欲作。完成度の高い全2巻。

 

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 ひとつ面白いと思ったのは、それぞれ描写されている信長が作品ごとに少しずつ違っていることです。織田信長という人間はもちろん一人しかいませんが、その解釈は作家ごとに異なっていました(全く同じものを書いたらパクリになってしまうのもありますが)。あるものは斎藤道三との関係に重きを置き、あるものは武田信玄との相違点に着目し、またあるものは父の織田信秀と対比させます。一方では明智光秀とだんだんすれ違っていき、また一方では逆にツーカーといっていいくらい通じ合っています。オリジナル要素を多く取り入れている作家もいれば、最新の研究をふんだんに取り入れている作家もいました。信長の敗者を主人公にしていたり、美少女化しているものまであったりします。

 実は今回は信長の一生を扱った作品ばかりということで、同じことを何度も読むことになるのかなと少し不安もありました。しかしいざ読んでみるとそんなことはなく、最後まで飽きずに読むことができました。「何年に何が起きた」といった全体的な流れこそ同じですが、捉え方によって全く違った見方ができて新しい発見の連続でした。実際に現実にあった「史実」は一つしかありませんが、「歴史」というものは書く人によっていくつも存在するということですかね。むしろ、15人の違った信長を見ていくような感覚を味わえました。そこが歴史の教科書と違った、歴史小説ならではの面白さだと思いました。

 信長に関しては、どの作品でも共通して、①軍事的・政治的に革新的であること、②新しい技術や人材を積極的に取り入れていること、③性格的には非常に怒りっぽく敵にも部下にも恐れられていることなどが描写されています。また、天才な革命児であるがゆえに孤独であることに触れられている作品も多かったです。他にも、取り入るのがうまい秀吉、忍耐力のある家康といった基本的なキャラクター性はどの作品でも共通でした。謙信と信玄は信長の上を行く軍事的な天才として描かれ、道三は真っ先に信長の真価を見抜きます。

 ですが、作品によって全く違う性格の人物もいました。例えば光秀は、一般に優秀だが柔軟性のない人物として描かれることが多いですが、信長と通じ合っているとする場合もありました。本能寺の変での豹変をどう説明するのかも重要なポイントで、扱いが難しい印象も受けました。さらに興味深いのが信長の正室である濃姫でした。大きくは「冷たい濃姫」と「優しい濃姫」の2パターンが存在し、前者の方がやや優勢でした。どうやら濃姫の記録はほとんど残されていないらしく、作者の趣味がかなり反映されているようでした。

 個人的なオススメを挙げると、山岡版『織田信長『信長の原理』になります。

 山岡版『織田信長は結構古い上に長めですが、とにかくキャラクターが立っていてどんどん読みたくなる魅力がありました。特に信長と濃姫の掛け合いが息ぴったりで、本作では珍しく優しい濃姫が見られます。逆に終盤で光秀が追い詰められていく様子はかなり痛々しく感情移入してしまいました。歴史小説とは思えないくらい生き生きした人物描写に引き込まれていきます。

 『信長の原理』は今回読んだ中では最も新しい作品になります。信長を巡る一連の動きが「働きアリの法則」によってうまく説明されており、一貫性があってとにかく完成度が高かったです。現代の法則を戦国時代に当てはめる斬新さに加え、信長の行動についての納得感は今までで一番あったと思います。すべての描写がクライマックスの本能寺の変に向かって進行していく様は圧巻です。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。