本をめぐる冒険

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『信長の原理』紹介

 こんにちは。

 天正10年6月2日(新暦に直すと1582年6月21日)は、本能寺の変が起こった日です。織田信長は家臣である明智光秀の謀反により、天下統一を目の前にしてその生涯を閉じることとなりました。信長といえば、好きな歴史上の人物ランキングなどで1位に輝くことが多く、その人気は非常に高いです。どうしてそんなに人気があるのでしょうか。今月はそんな信長が登場する小説を読んでみたいと思います。

 天正10年6月、いよいよ運命の日が訪れます。上洛した信長は、わずかな小姓のみを連れて本能寺に入りました。中国へ援軍に向かうはずだった光秀が本能寺を襲撃。寺が炎に包まれる中、信長は自害したと言われています。「人間五十年」一歩手前の49歳のことでした。光秀がなぜ謀反を起こしたのか?信長の遺体が見つからなかったのはなぜか?信長はなぜ上洛したのか?など、本能寺の変には多くの謎が残されており、今でも様々な説が唱えられています。

 さて、今回紹介するのは、垣根涼介さんの『信長の原理』です。どれだけ勢力を伸ばしても謀反が続いた信長の生涯を、ある社会学の法則を用いて紐解いていきます。

 

 

〇あらすじ

 幼い頃蟻の行列を見ていた少年はあることを発見する。その後成長して弾正忠家の跡を継ぎ、弟と戦うことになる。しかし自ら鍛えた兵のうち、積極的に戦う者が2割、それにつられて戦う者が6割、全く戦わない者が2割いることに気が付き、愕然とする。それは蟻を観察して発見した法則と同じだった。

 

信長の魅力、ここにあり!

 本作の信長は常に怒りに満ちています。あるときは全力で戦えない家来たちに、あるときは自分を理解しようとしない周囲に、そしてあるときは力不足を痛感した自分自身に対し、烈火のごとく怒り狂います。少しでも思った通りに行かないとすぐに腹を立て、その怒りをエネルギーにして次の行動に使うように動きます。
 本作で取り上げられている「2割が積極的に働き、6割は漫然と働き、2割は全く働かない」という法則は、いわゆる働きアリの法則、もしくはパレートの法則と呼ばれる社会学上の理論ですね。19世紀の経済学者のパレートは「2割の富裕層が富の8割を所有する」というパレートの法則を提唱しましたが、それよりも300年前に生きた信長は、経験と分析により自力で人間社会の法則を見つけます。怒りに任せた激情家というイメージの信長ですが、常に徹底的な観察と分析を欠かさない冷静さも兼ね備えています。特に蟻を使った実験をさせる様子は、戦国武将というよりも生物学者みたいで面白かったです。
 そして、その法則によりすべてが一貫して説明されているのが、本作の最も素晴らしいところです。松永久秀荒木村重の裏切り、突然の重臣たちの粛清、さらには本能寺の変に至るまでが同じ理論で説明されているため、すごく納得感がありました。また、働きアリの法則を題材にしていることで、現代社会に生きる私たちにとっても分かりやすくなっています。歴史小説に現代の理論を取り入れるというのはとても新鮮で面白かったです。
 垣根さんはデビュー作はミステリー小説だったようですが、歴史小説においてもこんなに斬新な作品を書かれているのは驚きですね。他にも『光秀の定理』も出版されているので、今度はそれも読んでみたいと思いました。信長は「原理」なのに光秀は「定理」なんですね。何か意味があるのでしょうか。
 ここまで読んでくださってありがとうございました。