本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『天魔信長』紹介

 こんにちは。

 天正10年6月2日(新暦に直すと1582年6月21日)は、本能寺の変が起こった日です。織田信長は家臣である明智光秀の謀反により、天下統一を目の前にしてその生涯を閉じることとなりました。信長といえば、好きな歴史上の人物ランキングなどで1位に輝くことが多く、その人気は非常に高いです。どうしてそんなに人気があるのでしょうか。今月はそんな信長が登場する小説を読んでみたいと思います。

 美濃を攻略した信長は、足利義昭を奉じて2度目の上洛を果たします。長らく打ち捨てられていた室町幕府再興のためという名目ですが、実際は将軍の権威を利用することが目的でした。すべての戦国大名は形式上天皇の家来という立場にあるため、将軍の命令には簡単に逆らうことができませんでした。政治の実権は武将たちが持っているのに、天皇家が存続し続けているのは日本史の不思議なところですね。

 さて、今回紹介するのは、高橋直樹さんの『天魔信長』です。織田家を継いだばかりの信長の若き時代を描きます。

 

 

〇あらすじ

 天文18年、尾張の野原を荒々しく駆ける集団を率いるのは16歳の信長だった。当時の信長は奇抜な身なりや非常識な行動から老臣たちに睨まれ、母や弟からは敵視され、美濃から嫁いできた帰蝶からも冷たくされていた。父の信秀は、もし織田家が分裂したままなら自分の葬儀で抹香を投げつけるように遺言を残して亡くなった。

 

信長の魅力、ここにあり!

 本作の信長は尾張国内に多くの敵を抱え、珍しく弱気になるシーンが結構見られます。ある意味人間らしい、魔王になる前の信長といった感じでしょうか。勢力を伸ばした後も何度も包囲網を敷かれており、思えば信長は常に敵に囲まれていますね。
 父信秀の葬儀で位牌に向かって抹香を投げつけたというのは有名な逸話の一つですが、本作ではそれが信秀の遺言だったとされています。聞き飽きたエピソードであっても、一つひねってあるだけで新鮮に感じますね。
 また、帰蝶濃姫)との関係が冷え切っているのも他作品とは異なっています。帰蝶は父の道三に心酔しきっており、彼女の許しがなければ信長は一緒に寝ることもできませんでした。もし帰蝶が美濃に帰ってしまえば妻も満足に扱えない男との烙印を押されてしまうため、信長も従うほかありません。この結婚は完全な政略結婚であったので、確かに二人の仲が冷え切っていてもおかしくはなさそうです。
 帰蝶は道三の死後は美濃へ返されることとなりますが、むしろ二人はそれによって緊張関係から解放されます。この解釈もあまり見たことがなくて面白いなと思いました。
 信長という一人の人間を描いているのにいろいろな解釈ができるのが歴史小説の面白さですね。
 ここまで読んでくださってありがとうございました。