本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『数学的にありえない』紹介

 こんにちは。

皆さんは「数学」と聞くと、何を思い浮かべますか?多くの人が抽象的で難しいと考える一方、他にはない論理的な純粋さや美しさを感じる人もいたりと、結構好き嫌いが分かれる分野です。また、一般的には小説のような文学とは対極にあるイメージだと思います。ですが、数学を題材とした本というのも実は数多く書かれています。

 というわけで、8月のテーマは『数学』です。

 さて今回は、アダム・ファウアーさんの『数学的にありえない』を紹介します。

 

 

〇あらすじ

 一瞬で確率を計算できるケインは、狭い地下室で悪臭の幻覚に苦しみながらポーカーに興じていた。手札はAのフォーカード。しかしありえない偶然により絶対に勝てるはずの勝負に敗北し、1万1000ドルの借金を背負うことに。さらには新薬の実験に協力したことで、未来予知に目覚めてしまう。一方、CIA局員のナヴァはアメリカの情報を他国に流していた。

 

〇数学と物語と

 ロトくじで大金を手に入れる確率は1億2000万分の1ですが、それはこれまで50人以上の身に起こっているそうです。また、巨大な隕石が地球に落ちる確率は毎年1000万分の1ですが、それは人類が誕生してから7000万年の間に一度も起こっていません。ギャンブルは同元に有利なようにできていることは当然ですが、ギャンブラーは不利になると分かっている方に賭けてしまいがちです。そう考えると、確率に対する私たちの直感ほど頼りにならないものはないのかもしれません。

 本作の主人公・ケインは統計学の講師をしており、確率の知識も優れた計算能力も持っています。にもかかわらず、ポーカーをやっているときが一番充実した時間だと考えるほどのギャンブル依存症でした。Aのフォーカードで敗北するという数学的にありえない事象が発生し、多額の借金を背負ってしまいます。本作でも取り上げられているように、そもそも数学の確率論はサイコロ賭博から生まれたものです。哲学者でも数学者でもあったパスカルが、途中で中止になったサイコロ勝負の掛け金をどう分配するのが公平なのかを相談されたことから始まったと言われています。同時代の数学者カルダノも確率についての研究を行っており、「ギャンブラーにとってはギャンブルをしないことが最大の利益となる」という言葉を残したことでも知られています。数学者でものめり込んでしまうのが確率の魅力なのでしょうか。

 その後ケインは特殊能力を目覚めさせ、これによって物語は大きく動くことになります。未来予知の能力は、物理学の世界で「ラプラスの魔」と呼ばれる存在に似ていました。それは、すべての物理法則を理解し、ある瞬間の物質粒子の位置を把握できれば、現在だけでなく未来についても予測できる、というものです。ケインは一瞬で未来を予測し、危機を回避することができるようになりました。脳内で無数のシミュレーションを繰り返すことで、低確率の事象を手繰り寄せることができるのです。この辺りは映画を意識しているのか、かなり映像的な描写に思えました。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。