名警部が競馬界の闇に挑む『日本ダービー殺人事件』紹介
こんにちは。
今年5月29日には日本競馬界でも最も特別なレース・日本ダービーが開催されます。今月はそれにちなみ、『馬』まつわる本を読んでいきたいと思います。
1973年の第40回日本ダービー、10連勝中の圧倒的一番人気ハイセイコーを破ったのは、9番人気のタケホープでした。続く菊花賞でもハイセイコーを破り、クラシック2冠を達成しました。その後もハイセイコーとタケホープのライバル対決は、2頭がともに引退する有馬記念まで続きました。当時は第1次競馬ブームだったそうですが、生涯のライバルなんて小説や漫画みたいでドラマチックですね。
さて、今回紹介するのは、西村京太郎さんの『日本ダービー殺人事件』です。タイトル通り日本ダービーに絡んだ殺人事件が起きるのですが、タケホープの話もほんの少しだけ出てきます。それにしても競馬とミステリーは相性がいいですね。
ミステリー作品なのでネタバレには注意して書いていきます。
〇あらすじ
タマキホープの馬主・玉木善男のもとにダービーへの出走を取り消すよう脅迫状が届いた。十津川警部は捜査に乗り出すが、タマキホープの騎手を務める予定だった北原が毒殺されてしまう。中央競馬の八百長疑惑や馬主協会における勢力争いも絡む中、日本中に注目される日本ダービーが開催される。
〇この馬がすごい!
本作に出てくるのはタマキホープという馬です。4歳馬にして520キロの大柄な巨体を持ち、11連勝で挑む日本ダービーではもちろん圧倒的な一番人気に推されます。アイドルホースというキャラクター性はまるで「ハイセイコー」のようですが、その馬名はどことなく「タケホープ」を連想させます。本文中にもこの2頭について言及している部分があり、おそらく両方をモデルとしてタマキホープが生み出されたのでしょう。
ひとつ感じたのは、競馬についての説明がくどくならない程度のほどよい分量だったことです。専門知識はその世界を知らない人にとってはとっつきにくいものがあります。本作では競馬を知らない人にも分かりやすく説明しながら、各章ごとにテンポよく展開が進みます。そのあたりは洗練された文章力を感じました。
もちろんミステリーとしても面白かったです。28頭立てで行われる日本ダービーでどうやって八百長を行うのか。後半からはそこに焦点が当てられています。ただし、本作のメインはあくまでも「殺人事件」です。主人公の十津川警部は、基本的には論理的に理屈を積み重ねながら捜査の網を絞っていきます。一方で行き詰った時には直感や閃きに頼ることもあります。そういった緩急の変化もあって最後まで飽きずに読むことができました。
正直なところ、子供の頃に親が持っていた十津川警部を読んだときにはその良さがよく分かりませんでした。いま改めて読んでみると、感情に流されない十津川警部には独特の渋さがを感じますね。
ここまで読んでくださってありがとうございました。