本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『終わりの街の終わり』紹介

 こんにちは。

 早いもので今年ももう12月。2022年もまもなく終わろうとしていますね。みなさんにとって、今年はどんな年でしたか。

 3月には、村上春樹さんの短編を原作とした映画『ドライブ・マイ・カー』が、アカデミー賞国際長編映画賞を受賞し、話題となりました。このブログで一番最初に書いた記事が、原作の「ドライブ・マイ・カー」の感想だったのが懐かしいです。

 今年も色々ありましたが、なるべくやり残したことのないように年の終わりを迎えたいですね。

 というわけで、今月は「世界の終わり」をテーマに本を読んでいきたいと思います。

 さて、今回はケヴィン・ブロックマイヤーさんの『終わりの街の終わり』を紹介します。ややネタバレありになってしまったので、未読の方はご注意ください。

 

 

〇あらすじ

 人々は死んだ後、いろいろな世界を横断して終わりの街に向かう。そこでは、その人のことを現世の誰かが覚えている限り存在できるらしい。ある時、伝染病で亡くなったという人が現れては、間もなく消えていくという現象が発生する。

 一方、ローラは南極大陸に一人取り残されていた。通信も途絶し、世界から忘れ去られてしまったと感じた彼女は、他の基地に向かった仲間たちの後を追うことを決断する。

 

一人の人間が記憶している人間の総数はどのくらいになるのだろうか?

 

〇感想

 本作では、恐ろしい伝染病により世界が終わりを迎えます。<まばたき>と呼ばれる伝染病は、空気感染により凄まじい速度で世界に広がり、数か月の間に人類のほとんどが死んでしまいます。本作が書かれたのは2007年とのことですが、新型コロナを経験した私達からすると、ただの作り話と簡単に笑い飛ばすこともできませんね。

 ですが、本作が本当に面白いのは、そこにアフリカの伝承を元にした死後の世界を持ってくるところです。アフリカの多くの社会では、亡くなった人は生きている人たちが記憶している間はまだ身近にいると考えられ、昔に死んだ人とは区別するそうです。本作では、伝染病により人類が次々と死んでいく中で、終わりの街でも新たに人々が現れては消えていくことになります。そのとき、偶然にもコカ・コーラ社の仕事で南極にいたローラだけは、<まばたき>に感染することがありませんでした。そのため、終わりの街に残るのは、唯一の生存者であるローラが知っている人たちだけになります。初めは通信が途絶し助けも来ないため、世界から忘れ去られていたと思っていたローラでしたが、実際は逆に彼女の記憶に残っている人たちだけが終わりの街に留まることができたのです。その展開がとても見事で面白かったです。ファンタジーチックなラストも、考察の余地があって個人的には良かったと思います。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。