本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『ザ・ロード』紹介

 こんにちは。

 早いもので今年ももう12月。2022年もまもなく終わろうとしていますね。みなさんにとって、今年はどんな年でしたか。

 4月には、本屋大賞の発表がありました。大賞に選ばれたのは、逢坂冬馬さんの『同志少女よ、敵を撃て』でした。旧ソ連の女性狙撃手を描いたミステリー作品で、これがデビュー作というから驚きです。

 今年も色々ありましたが、なるべくやり残したことのないように年の終わりを迎えたいですね。

 というわけで、今月は「世界の終わり」をテーマに本を読んでいきたいと思います。

 さて、今回はコーマック・マッカーシーさんの『ザ・ロード』を紹介します。

 

 

〇あらすじ

 砂埃と灰により、すべてが色褪せた世界。彼と彼の息子は南に向かって進んでいた。どこまで続くのか分からない道をただ進む。

 

ねぇ、訊いてもいい?

ああ、いいよ。

ぼくが死んだらどうする?

パパも死にたくなるだろうな。

一緒にいられるように?

そう、一緒にいられるように。

わかった。

 

〇感想

 本作では、なぜ世界が終わるのか、その明確な理由は説明されません。状況から核戦争後の世界を描いていると思われ、空は厚い雲に覆われて文明も崩壊して人々は武装しています。それを反映するように、独特の文体であることが目に付きます。本文中には句読点がほぼなく、会話文も地の文から続いて表記されています。翻訳作品ですが、おそらく原文の方も同じような文体で書かれているのだと思います。

 また、ストーリー的にも非常にストイックです。最初から世界の崩壊に直面しており、親子は寒いから南に向かうという漠然とした目的で旅を続けています。道中では彼は常に息子を励まし、身を挺して守ろうとします。息子は崩壊前の世界を知りませんが、子供らしい純真さを持っており、ある意味で彼も息子に救われている部分もありそうでした。励まし合いながらひたすらに続く道を進むというのは、人生そのものみたいです。「ザ・ロード」(その道)というタイトルも非常にシンプルです。「人の一生は重き荷を背負うて遠き道を行くが如し」という徳川家康の言葉や、「僕の前に道はない/僕の後ろに道は出來る」という高村光太郎の詩など、日本でも人生を道にたとえることは多いです。山が多く細く曲がりくねった道が多い日本でも、広大な土地にひたすらに長い直線道路が多いであろうアメリカでも、道に対するイメージが似ているには興味深いですね。どこまでも続いていく道というのは、人類に共通したメタファーと言えそうです。

 また、食べ物を食べるシーンが多いのも印象に残りました。生産活動も行われていない世界では、当然その日食べるものを確保するのもままなりません。それでも作中では毎回食事シーンが登場し、食料があるところを辿りながらなんとか旅を続けます。どんな状況でもお腹は空くし、それこそが生きるということとも言えます。極限の状況だからこそ、生きることの意味が浮かび上がってくる感じが興味深いです。

 本当に世界が終わってしまったときはこんな感じなのかもしれない、と考えさせられる作品でした。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。