本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

衝撃的な書き出しが有名な『桜の木の下には』感想

 こんにちは。

 今月から、何か一つ「テーマ」を決めてそのテーマに沿った本を読んでいくことにしました。

 4月のテーマは、春を代表する花である『』です。毎年春になると満開の花を咲かせ、私たちを楽しませてくれます。ただ美しいだけでなく、狂ったように一度に咲いてすぐに散ってしまう姿からは、儚さや妖しさを感じさせます。古くから日本人を魅了してきた桜は、数多くの小説にも登場してきました。

 今回紹介する本は、梶井基次郎の『桜の木の下には』です。国語の教科書にも必ず載っている作品で、おそらく桜関連の本の中では最も有名なのではないでしょうか。

 

f:id:itsutsuba968:20220404202254j:plain

 

〇どんな本?

 大正時代の小説家・梶井基次郎の掌編小説で、「桜の木の下には屍体が埋まっている!」という冒頭で有名です。太田紫織さんの『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』のように、今でもタイトルをもじって使われるくらい愛されている作品です。

 梶井は肺結核を患い31歳の若さで亡くなりますが、彼の作品は後世に多大な影響を残しています。

 代表作『檸檬』にちなみ、丸善京都店にはレモンを置いて帰る人が多数いたそうです。同店は2005年に閉店しましたが、2015年に再出店。レモン置き場専用のカゴまで設置されているそうです。

 

〇あらすじ

 桜の木の下には屍体が埋まっている!見事なまでの満開の桜に不安を感じた男がその美しさの逆説的な理由をおまえに対して語る。

 

〇この『桜』が面白い!

 『桜の木の下には屍体が埋まっている!』

 この1行目には、一度読んだら忘れられない強烈なインパクがあります。

 男は「この二三日不安だった」、桜の美しさに「不安になり、憂鬱になり、空虚な気持ちになった」と言います。そこから桜の木の下に屍体が埋まっていると妄想することでようやく桜が見られるようになります。また、2,3日前に薄羽かげろうの美しい交尾とおびただしい数の屍体を目にし、そこに残忍な喜びを感じました。

 確かに一見きれいに見える桜ですが、全ての樹が一斉に全く同じように咲いているところを見ると、やや不気味に感じることがあります。

 美しい「生」の裏には醜い「死」があって、「死」があるからこそ「生」が光り輝く。若くして病気を患っていた著者の不安と縋り付くような希望が感じられます。

 『檸檬』でも「レモンイエロウの絵具」のような色のレモンを爆弾に見立てる妄想をしていました。こうした鮮やかな表現や衝撃的な空想は、梶井基次郎にしか書けないのだと思います。その人以外には書けないと思う作品ってなかなかないですよね。他の誰にも真似できない魅力があるからこそ、100年近く経つ現在でも愛されているのではないでしょうか。

 

 余談ですが、「カゲロウ」と「ウスバカゲロウ」は名前は似ていますが違う昆虫だそうです。

 「カゲロウ」は幼虫のときは水生で半年から1年ほど過ごし、成虫になってからは数週間から数日で一生を終えます。サナギにはならない不完全変態という特徴を持ちます。成虫はものを食べる器官もなく、ただ子孫を残すだけであるため、その命の短さから儚いもののたとえとされてきました。

 「ウスバカゲロウ」は一部の幼虫時代はアリジゴクとも呼ばれ、カゲロウと違って陸生。サナギを経て成虫になる完全変態で、成虫になってからは数週間の寿命です。

 文脈からするに、『桜の木の下には』に出てくるのは「ウスバカゲロウ」ではなく「カゲロウ」のことに思えますね。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。