本をめぐる冒険

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一見ありふれた話に潜む謎と鋭い真実! 『満願』紹介

 こんにちは。

 本日は米澤穂信さんの『満願』を紹介したいと思います。米澤さんと言えば、最新作『黒牢城』で「このミステリーがすごい!」を含むミステリー賞4冠を達成、そして今年の直木賞も受賞されました。私はまだ読めていないのですが、戦国時代を舞台にした作品のようです。2021年はデビュー20周年に当たる年で、更なる進化を続けているのは本当に素晴らしいことだと思います。

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Michal JarmolukによるPixabayからの画像

〇どんな本?

 『満願』には表題作を含む6つの短編ミステリーが収録されています。6篇は独立していますが、どの作品も共通してやや暗い雰囲気が漂い、結末にはなるほどと思うオチがそれぞれあります。

 本作で2014年度のミステリーランキング三冠を達成しています。三冠達成はミステリー史上初のことでした。

 米澤さんは初期の古典部シリーズや小市民シリーズといった青春系のミステリーの印象がありますが、近年では本作のような大人向けミステリーや『黒牢城』のような歴史系ミステリーも書かれており、創作の幅をますます広げていらっしゃいます。

 

〇あらすじ

 新人警官の川藤が犯人に向かって発砲し殉死した。かつて部下を死なせた過去のある柳岡が語る、警察官には向いていない川藤の秘密とは?(『夜警』)

 姿を消した元恋人の佐和子が働いているのは、自殺をしたい者が訪れる旅館だった。置き忘れられた遺書の持ち主が3人の宿泊客の中にいるらしいが・・・。(『死人宿』)

 不思議なほど異性を引き付ける魅力を持つ成海は実際はだめ人間だった。二人の娘を守るためにさおりは離婚を決意する。母親有利とされる調停で衝撃の判決が下される。(『柘榴』)

 バングラデシュ天然ガスの開発を行う伊丹。拠点となる村で交渉は難航する。しかし賛成派から反対派の村長の殺害を頼まれることに。(『万灯』)

 都市伝説のフリーページに困った俺は先輩から死を呼ぶ峠のネタを提供され、現地に取材に向かうことに。事故を見たと言うおばあさんに話を聞くことができたが・・・。(『関守』)

 鵜川妙子が殺人容疑で逮捕された。鵜川家は大学時代下宿先としてお世話になっており、勉強の気晴らしにと彼女に連れ出されて達磨を買った思い出がよみがえる。願い叶って弁護士となった私は妙子を弁護するも、彼女は控訴を取り下げてしまう。(『満願』)

 

〇ここが面白い!

 一番のポイントはやはり、「ゾクリとする結末」が6篇すべてに用意してあるところでしょう。

 米澤さんの書く話はいわゆる「日常の謎」に分類され、なにげない日常の中に潜む謎を解いていきます。連続殺人や大掛かりなトリックは出てきませんが、謎とそれに対する意外な解答が用意されており、しっかりとしたミステリーとしての面白さを味わうことができます。

 本作でもその面白さは存分に発揮されています。サクッと読めるけど最後には意外性のある結末があって腑に落ちる。そうした短編作品でしか味わえない感覚が味わえます。ただ『万灯』は珍しくスケールの大きな話で、そういう意味では特殊に映りました。

 また、ミステリー以外の部分にも注目です。『夜警』では警察官としての冷たさ、『死人宿』では厭世的な雰囲気、『柘榴』では登場人物たちの妖しくも危うい感じ、『関守』では怪談めいた不気味さなど、それぞれの作品が個性的な空気感を持っています。

 個人的に一番のお気に入りは最後の『満願』です。ミステリーとして一番質が高いと思いますし、「だからこのタイトルだったのか!」と最後に納得できる仕掛けとなっています。文体も昭和を感じさせる雰囲気があり、特に達磨を買いに行くシーンの描写はノスタルジックで印象深いです。まるで古い映画を見ているような、そんな気分にさせてくれます。

 ミステリーとしてももちろん面白く、ミステリー以外の部分もそれぞれ違った味わい深さがある。そんな短編集でした。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。